昼下がりのオフィス街。
少し風が強く、
舞い上がった埃が陽光にきらめいていた。
隼人は祐真を呼び出し、
人目のないビル裏の通用口へ向かった。
祐真は既にそこに立っていた。
ポケットに手を突っこみ、
どこか勝ち誇ったような笑みを浮かべて。
「隼人。
呼び出しなんて珍しいな」
隼人は無言で近づき、
祐真を二メートルほどの距離で見据えた。
冷たい目。
怒りを飲み込んだ、静かな視線。
祐真が眉を上げた。
「なんだよ、その目。
ああ……また奥さんのことで怒ってるのか」
隼人は淡々と告げた。
「祐真。
今日は“全部”話をつけに来た」
祐真は鼻で笑った。
「全部?
なんで俺が?
由奈が泣いてたのは“あなたのせい”だろ」
隼人は一歩前に進む。
「その言い方だ。
ずっと由奈を苦しめてきた」
祐真の目が一瞬だけ揺れたが、
すぐに薄い笑みに戻る。
「だってさ……
由奈は泣くと綺麗だから」
隼人の拳が瞬間、震えた。
(……こいつ……)
しかし、殴りたくなる衝動を
ぎりぎりで抑え込む。
隼人は胸ポケットからUSBを取り出した。
「これは、お前の“行動の証拠”だ」
祐真は一瞬だけ表情を強張らせる。
「証拠……?
なんのことだよ?」
隼人は淡々と話し始めた。
「祐真。
お前は昨日、由奈を追った。
エントランスでも、エレベーターでも。
由奈は“怖がっていた”」
祐真の目に、わずかな苛立ちが走る。
「怖がってた……?
俺は助けてやろうとしてただけだ」
「助ける?
ファミレスの前で、腕を掴んだのがか?」
祐真の呼吸が止まる。
だが祐真はすぐに強がるように笑い声を上げた。
「由奈はな……
俺に頼りたかったんだよ。
泣いてたし、震えてたし。
俺が慰めてやったんだ」
隼人の瞳が鋭く光った。
「慰める?
泣き崩れる由奈を“盗撮”して?」
祐真の表情が、
初めて明確に歪んだ。
「……!
な、何言って――」
「映像に残っている。
非常階段前のカメラに」
祐真の呼吸が乱れる。
「そんなの……
“偶然”だろ……
俺が撮ったんじゃない……
たまたまスマホ触ってただけで――」
「祐真」
隼人は、逃げ道を塞ぐように
ゆっくり前に踏み込んだ。
「映像の中で、お前は由奈に触れようとして拒絶されている。
その直後にスマホを構えた。
“偶然”なんて言わせない」
祐真は後ずさる。
壁に背中がぶつかる。
「いや……
違う……
由奈は俺を……拒絶なんかしてない……」
「拒絶した。
何度もな」
祐真の瞳に、
焦りと狂気が混ざっていく。
「お前……
由奈の気持ちなんて……
分かってないんだよ……!」
隼人は低く答えた。
「それは俺の台詞だ。
由奈は、俺以外の誰かに触れられて泣くような子じゃない」
祐真は怒りに震えた。
「“お前より俺の方が分かってる”って、
あの子も言ってただろ……!」
隼人が眉をひそめる。
「由奈がそんなこと言うものか」
祐真の口が歪む。
「言うんだよ。
俺の前だけではな。
あの子は……
俺を必要としてたんだ」
(……言わせたんだな)
映像の中の、怯えた由奈。
泣きながら祐真を見る目。
あれは、必要としている目じゃない。
“助けを求めていた”目だ。
“隼人を呼びたかった”目だ。
隼人はゆっくり言った。
「祐真。
お前が見てきた“由奈”は、
お前が勝手に作った幻想だ」
祐真は叫んだ。
「幻想じゃねえ!!
俺はあの子を守りたかった!!
お前みたいに忙しくて、
あの子の気持ちも見ない男より……!!」
隼人の呼吸が深くなる。
ついに、堪えていた怒りが限界まで来る。
「それ以上――
俺の妻を侮辱するな」
祐真は壁に追い詰められ、
それでも必死に言葉を吐き出した。
「俺なら……
俺なら由奈を……
大事にできた!!
泣かせたりしない!!
あんな辛そうな顔をさせない!!!
俺なら……!!!」
隼人は胸の奥で静かに怒りを燃やしながら言う。
「泣かせたのは……お前だ」
祐真の動きが止まった。
隼人はUSBを祐真の胸に押し当てる。
「証拠は全部揃った。
お前が由奈を追い詰め、
無理やり接触し、
写真を偽装し、
噂を広げたこと。
全部な」
祐真は震える声で叫ぶ。
「俺は……
悪くねぇ!!!
俺はあの子を好きだっただけだ!!!
俺は……!!」
隼人は冷たく言い放った。
「歪んだ愛は、愛じゃない」
祐真の目から一筋の涙がこぼれた。
「お前に……
由奈を幸せにできるわけないだろ……」
隼人は一歩引き、
深く息を吐いた。
「俺が幸せにする。
由奈は俺の妻だ」
祐真は崩れ落ちるように壁にもたれ、
その場に座り込んだ。
隼人は背を向けた。
「これで終わりだ、祐真」
そして歩き出す。
由奈のもとへ。
守るべきものは、
ただひとつだ。
少し風が強く、
舞い上がった埃が陽光にきらめいていた。
隼人は祐真を呼び出し、
人目のないビル裏の通用口へ向かった。
祐真は既にそこに立っていた。
ポケットに手を突っこみ、
どこか勝ち誇ったような笑みを浮かべて。
「隼人。
呼び出しなんて珍しいな」
隼人は無言で近づき、
祐真を二メートルほどの距離で見据えた。
冷たい目。
怒りを飲み込んだ、静かな視線。
祐真が眉を上げた。
「なんだよ、その目。
ああ……また奥さんのことで怒ってるのか」
隼人は淡々と告げた。
「祐真。
今日は“全部”話をつけに来た」
祐真は鼻で笑った。
「全部?
なんで俺が?
由奈が泣いてたのは“あなたのせい”だろ」
隼人は一歩前に進む。
「その言い方だ。
ずっと由奈を苦しめてきた」
祐真の目が一瞬だけ揺れたが、
すぐに薄い笑みに戻る。
「だってさ……
由奈は泣くと綺麗だから」
隼人の拳が瞬間、震えた。
(……こいつ……)
しかし、殴りたくなる衝動を
ぎりぎりで抑え込む。
隼人は胸ポケットからUSBを取り出した。
「これは、お前の“行動の証拠”だ」
祐真は一瞬だけ表情を強張らせる。
「証拠……?
なんのことだよ?」
隼人は淡々と話し始めた。
「祐真。
お前は昨日、由奈を追った。
エントランスでも、エレベーターでも。
由奈は“怖がっていた”」
祐真の目に、わずかな苛立ちが走る。
「怖がってた……?
俺は助けてやろうとしてただけだ」
「助ける?
ファミレスの前で、腕を掴んだのがか?」
祐真の呼吸が止まる。
だが祐真はすぐに強がるように笑い声を上げた。
「由奈はな……
俺に頼りたかったんだよ。
泣いてたし、震えてたし。
俺が慰めてやったんだ」
隼人の瞳が鋭く光った。
「慰める?
泣き崩れる由奈を“盗撮”して?」
祐真の表情が、
初めて明確に歪んだ。
「……!
な、何言って――」
「映像に残っている。
非常階段前のカメラに」
祐真の呼吸が乱れる。
「そんなの……
“偶然”だろ……
俺が撮ったんじゃない……
たまたまスマホ触ってただけで――」
「祐真」
隼人は、逃げ道を塞ぐように
ゆっくり前に踏み込んだ。
「映像の中で、お前は由奈に触れようとして拒絶されている。
その直後にスマホを構えた。
“偶然”なんて言わせない」
祐真は後ずさる。
壁に背中がぶつかる。
「いや……
違う……
由奈は俺を……拒絶なんかしてない……」
「拒絶した。
何度もな」
祐真の瞳に、
焦りと狂気が混ざっていく。
「お前……
由奈の気持ちなんて……
分かってないんだよ……!」
隼人は低く答えた。
「それは俺の台詞だ。
由奈は、俺以外の誰かに触れられて泣くような子じゃない」
祐真は怒りに震えた。
「“お前より俺の方が分かってる”って、
あの子も言ってただろ……!」
隼人が眉をひそめる。
「由奈がそんなこと言うものか」
祐真の口が歪む。
「言うんだよ。
俺の前だけではな。
あの子は……
俺を必要としてたんだ」
(……言わせたんだな)
映像の中の、怯えた由奈。
泣きながら祐真を見る目。
あれは、必要としている目じゃない。
“助けを求めていた”目だ。
“隼人を呼びたかった”目だ。
隼人はゆっくり言った。
「祐真。
お前が見てきた“由奈”は、
お前が勝手に作った幻想だ」
祐真は叫んだ。
「幻想じゃねえ!!
俺はあの子を守りたかった!!
お前みたいに忙しくて、
あの子の気持ちも見ない男より……!!」
隼人の呼吸が深くなる。
ついに、堪えていた怒りが限界まで来る。
「それ以上――
俺の妻を侮辱するな」
祐真は壁に追い詰められ、
それでも必死に言葉を吐き出した。
「俺なら……
俺なら由奈を……
大事にできた!!
泣かせたりしない!!
あんな辛そうな顔をさせない!!!
俺なら……!!!」
隼人は胸の奥で静かに怒りを燃やしながら言う。
「泣かせたのは……お前だ」
祐真の動きが止まった。
隼人はUSBを祐真の胸に押し当てる。
「証拠は全部揃った。
お前が由奈を追い詰め、
無理やり接触し、
写真を偽装し、
噂を広げたこと。
全部な」
祐真は震える声で叫ぶ。
「俺は……
悪くねぇ!!!
俺はあの子を好きだっただけだ!!!
俺は……!!」
隼人は冷たく言い放った。
「歪んだ愛は、愛じゃない」
祐真の目から一筋の涙がこぼれた。
「お前に……
由奈を幸せにできるわけないだろ……」
隼人は一歩引き、
深く息を吐いた。
「俺が幸せにする。
由奈は俺の妻だ」
祐真は崩れ落ちるように壁にもたれ、
その場に座り込んだ。
隼人は背を向けた。
「これで終わりだ、祐真」
そして歩き出す。
由奈のもとへ。
守るべきものは、
ただひとつだ。

