幼馴染の影と三年目の誤解 ――その笑顔は、私に向かない

マンションの部屋に戻った隼人は、
手にしたUSBを強く握った。

これがあれば――
二人を苦しめたすべての“嘘”を
打ち壊すことができる。

しかしまずは、
由奈の心を救うこと。
それが第一だった。

隼人は寝室の扉を静かに開けた。

ベッドの上で、
由奈は膝を抱えたまま小さく丸まっていた。

薄い毛布を胸に抱き、
泣き腫らした瞳でゆっくりと顔を上げる。

「……隼人、さん……」

声が震えている。

(ずっと怖かったんだな……
疑われるのが、嫌だったんじゃない。
“俺に嫌われる”のが怖かったんだ)

胸が痛んだ。

隼人は由奈のそばへ座り、
USBを見せた。

「由奈。
俺は――お前を信じてる」

由奈の瞳が揺れる。

「……でも……
写真が……あったから……」

「写真より、俺が見た“由奈”を信じる」

隼人は深く息を吸い、
USBをノートPCに差し込んだ。

画面に映し出されたのは、
隼人と管理員が確認した監視カメラ映像。

由奈は驚いたように前のめりになり、
目を見開く。

映像1:エントランス
→ 自分のあとを追うように祐真が入ってくる。

映像2:エレベーター
→ 由奈が怖がって隅に立ち、祐真が無理に近づく。

映像3:非常階段前
→ 泣いて震える自分。
→ スマホを構える祐真。
→ 触れられてもいない距離。

映像4:ファミレス前
→ 由奈を掴もうとする祐真。
→ それを止めて庇う隼人。

映像を見た瞬間、
由奈は小さく手で口を覆った。

「……こんな……
祐真さん……
こんなこと……してたんだ……」

隼人は静かに頷いた。

「お前は、何も悪くない。
祐真が――勝手にお前を利用したんだ」

由奈の肩が震える。

「でも……
噂も、写真も……
わたしが弱かったから……
信じてしまって……」

「それも違う」

隼人は由奈の手を握った。

「弱かったんじゃない。
“追い詰められていた”んだ」

手の温もりが胸に広がり、
由奈の目から涙が一粒こぼれた。

隼人は続ける。

「麗華が……
お前に近づくたびに“嘘”を混ぜた。
祐真が……
お前の涙を利用して写真を撮った」

由奈の手がきゅっと隼人の手を握り返す。

隼人はゆっくりと
由奈の頬に手を添えた。

「由奈。
俺はお前を一度も疑っていない。
これから先も疑わない」

「……隼人さん……」

「だから……
もう一度、俺を信じてほしい」

その声は優しくて、
それでいてどこか震えていた。

(ああ……
隼人さんも傷ついていたんだ……
私だけじゃなかったんだ……)

由奈の胸があたたかく、苦しくなる。

静かにひとしずく涙が落ちた。

「……信じます。
隼人さんを……
もう一度じゃなく……
ずっと信じます」

隼人の表情が、ほっとゆるんだ。

彼はそっと由奈を抱き寄せた。

強く、優しく。
昨夜よりも、深い抱擁。

「怖かっただろう……」

「……うん……
でも……隼人さんが……
迎えに来てくれて……
守ってくれて……
お願いしたら……
抱きしめてくれて……」

「当たり前だ。
お前は俺の妻だ」

由奈は隼人の胸に顔を埋め、
小さく泣いた。

「……隼人さん……
ほんとうに、ありがとう……」

「礼なんていらない。
これからも守る」

隼人の腕の力が少し強くなった。

「明日……
決着をつけてくる」

由奈の呼吸が止まる。

「……隼人さん……
ひとりで行くの……?」

「心配するな。
俺はもう、誰にも惑わされない」

隼人は由奈の額にそっとキスを落とした。

優しく、確かに。

「明日は……
由奈の涙の“原因”を全部壊してくる」

その声に、由奈の胸は熱くなる。

「……隼人さん……
気をつけて……」

隼人は笑った。
優しく、強く。

「必ず戻る。
お前のところへ」

由奈もまた、
隼人の胸に頬を寄せて囁いた。

「ずっと……
待ってます」

その夜。

二人の心は初めて、
完全に同じ方向を向いた。

――決着前夜。

嵐は、すぐそこに迫っていた。