夜。
マンションの外の風は静かで、
街灯がわずかに揺れていた。
隼人はスマホを握りしめ、
深く息を吐く。
(佐伯さん……確かに優しい人だった。
噂に流されるタイプではない)
《15分後なら電話できます》
佐伯から届いた返信。
隼人は「お願いします」と返し、
廊下の端へ移動した。
寝室の由奈には、
もうこれ以上不安を見せたくなかったからだ。
――15分後。
スマホが静かに震えた。
「……片岡さん?」
「夜分にすみません。佐伯さん」
電話越しの佐伯の声は、
少し緊張しながらも誠実だった。
「いいえ……私も、今日のお二人を見て
どうしても気になっていたので……」
隼人は息を整え、低い声で切り出す。
「今日、由奈が職場で……
何かありましたか?」
電話の向こうで、
佐伯が小さく息を吸ったのが分かった。
「……実は……ありました」
(やはりか)
隼人は黙って続きの言葉を待つ。
「休憩室で、由奈ちゃん……
泣いていて。
声も出せないほどでした」
隼人の胸が痛む。
(あの時……
俺は……由奈の泣き声も聞けずに……)
佐伯は続けた。
「でも、それだけじゃないんです」
「どういうことですか」
「“噂”が不自然に早かったんです」
隼人の眉が動く。
「不自然?」
「ええ。
朝、由奈ちゃんが少し元気なかっただけで、
昼前には“夫婦が不仲”“泣いていた”って……
職場中に広まっていたんです」
(早すぎる)
隼人は思い当たる人物を一人だけ思い浮かべた。
――麗華。
佐伯は小さく声を落とした。
「そして……噂を“最初に口にした人”も……
私は見てしまったんです」
隼人の胸が緊張で固まる。
「誰ですか」
「……西園寺さんです」
隼人は静かに目を閉じた。
(確定か……)
佐伯は続ける。
「でも――
それだけじゃありません」
隼人の心臓が静かに脈打つ。
「由奈ちゃんが……“抱きしめられていた”という噂。
あれの“元になった写真”を見せられた人が
何人かいたんです」
「……っ」
隼人の拳にぎゅっと力が入る。
「でも、その写真……
“祐真さんが由奈ちゃんを抱きしめていた”と
思わせる角度でしたが……」
(……角度?)
「実際は……
“触れてすらいませんでしたよ”」
隼人の呼吸が止まりかけた。
「見たんですか?」
「はい。
偶然、その場にいた人が
『これ、捏造っぽくない?』って笑って見せてきて……
見たら、由奈ちゃんは泣き崩れてただけ。
祐真さんが勝手に手を伸ばし……
でも触れてませんでした」
「……」
隼人は握った拳を静かに震わせた。
(やっぱり祐真……
お前は由奈を“利用して”俺を揺さぶったのか)
佐伯はさらに言葉を続ける。
「しかも……その写真を
“麗華さんが送ってきた”って噂が
なぜか同時に広まっていたんです」
隼人は息を呑む。
(麗華の名前……?
祐真の写真を広めたのも?)
佐伯は言った。
「私には分かるんです。
あの写真が広まるスピード……
“誰かが意図的にばら撒かないと無理”」
(麗華。
お前、祐真と組んだのか)
佐伯の声が震える。
「由奈ちゃん、本当に傷ついてました。
あなたの奥さんを守れるのは……
あなたしかいません」
隼人の胸に強い熱が生まれた。
「ありがとうございます。
佐伯さん、あなたの証言は……
本当に力になります」
佐伯は少し泣いているような声で答えた。
「どうか……
由奈ちゃんを幸せにしてあげてください」
隼人は目を閉じ、
静かに頷く。
「必ず。
必ず守ります」
電話が切れたあと、
隼人はしばらくその場から動けなかった。
(麗華……
祐真……
お前たちの“嘘”はもう暴ける)
だが――
証拠はまだ足りない。
祐真の“行動の証拠”を掴まなければならない。
その時、隼人のスマホが新たに震えた。
画面には――
マンション管理室からの返信。
《ご依頼のカメラ映像の確認が可能です。
明日9時にお越しください》
隼人の瞳に
鋭い光が宿った。
「……これで、決着をつける」
静かに、そして確実に
“真実”が隼人の手に集まり始めていた。
マンションの外の風は静かで、
街灯がわずかに揺れていた。
隼人はスマホを握りしめ、
深く息を吐く。
(佐伯さん……確かに優しい人だった。
噂に流されるタイプではない)
《15分後なら電話できます》
佐伯から届いた返信。
隼人は「お願いします」と返し、
廊下の端へ移動した。
寝室の由奈には、
もうこれ以上不安を見せたくなかったからだ。
――15分後。
スマホが静かに震えた。
「……片岡さん?」
「夜分にすみません。佐伯さん」
電話越しの佐伯の声は、
少し緊張しながらも誠実だった。
「いいえ……私も、今日のお二人を見て
どうしても気になっていたので……」
隼人は息を整え、低い声で切り出す。
「今日、由奈が職場で……
何かありましたか?」
電話の向こうで、
佐伯が小さく息を吸ったのが分かった。
「……実は……ありました」
(やはりか)
隼人は黙って続きの言葉を待つ。
「休憩室で、由奈ちゃん……
泣いていて。
声も出せないほどでした」
隼人の胸が痛む。
(あの時……
俺は……由奈の泣き声も聞けずに……)
佐伯は続けた。
「でも、それだけじゃないんです」
「どういうことですか」
「“噂”が不自然に早かったんです」
隼人の眉が動く。
「不自然?」
「ええ。
朝、由奈ちゃんが少し元気なかっただけで、
昼前には“夫婦が不仲”“泣いていた”って……
職場中に広まっていたんです」
(早すぎる)
隼人は思い当たる人物を一人だけ思い浮かべた。
――麗華。
佐伯は小さく声を落とした。
「そして……噂を“最初に口にした人”も……
私は見てしまったんです」
隼人の胸が緊張で固まる。
「誰ですか」
「……西園寺さんです」
隼人は静かに目を閉じた。
(確定か……)
佐伯は続ける。
「でも――
それだけじゃありません」
隼人の心臓が静かに脈打つ。
「由奈ちゃんが……“抱きしめられていた”という噂。
あれの“元になった写真”を見せられた人が
何人かいたんです」
「……っ」
隼人の拳にぎゅっと力が入る。
「でも、その写真……
“祐真さんが由奈ちゃんを抱きしめていた”と
思わせる角度でしたが……」
(……角度?)
「実際は……
“触れてすらいませんでしたよ”」
隼人の呼吸が止まりかけた。
「見たんですか?」
「はい。
偶然、その場にいた人が
『これ、捏造っぽくない?』って笑って見せてきて……
見たら、由奈ちゃんは泣き崩れてただけ。
祐真さんが勝手に手を伸ばし……
でも触れてませんでした」
「……」
隼人は握った拳を静かに震わせた。
(やっぱり祐真……
お前は由奈を“利用して”俺を揺さぶったのか)
佐伯はさらに言葉を続ける。
「しかも……その写真を
“麗華さんが送ってきた”って噂が
なぜか同時に広まっていたんです」
隼人は息を呑む。
(麗華の名前……?
祐真の写真を広めたのも?)
佐伯は言った。
「私には分かるんです。
あの写真が広まるスピード……
“誰かが意図的にばら撒かないと無理”」
(麗華。
お前、祐真と組んだのか)
佐伯の声が震える。
「由奈ちゃん、本当に傷ついてました。
あなたの奥さんを守れるのは……
あなたしかいません」
隼人の胸に強い熱が生まれた。
「ありがとうございます。
佐伯さん、あなたの証言は……
本当に力になります」
佐伯は少し泣いているような声で答えた。
「どうか……
由奈ちゃんを幸せにしてあげてください」
隼人は目を閉じ、
静かに頷く。
「必ず。
必ず守ります」
電話が切れたあと、
隼人はしばらくその場から動けなかった。
(麗華……
祐真……
お前たちの“嘘”はもう暴ける)
だが――
証拠はまだ足りない。
祐真の“行動の証拠”を掴まなければならない。
その時、隼人のスマホが新たに震えた。
画面には――
マンション管理室からの返信。
《ご依頼のカメラ映像の確認が可能です。
明日9時にお越しください》
隼人の瞳に
鋭い光が宿った。
「……これで、決着をつける」
静かに、そして確実に
“真実”が隼人の手に集まり始めていた。

