幼馴染の影と三年目の誤解 ――その笑顔は、私に向かない

隼人は手紙を握りしめたまま、
由奈をソファに座らせ、
落ち着かせようとしていた。

「もう……一人にしない。
俺が全部、確かめる」

由奈は涙をぬぐいながら、小さく頷いた。

(隼人さん……信じていいの?
でも……私は……)

不安はまだ完全には消えない。

そのとき――。

ピコン。

由奈のスマホが震えた。

由奈は胸の奥がざわりとする。

恐る恐る画面を開く。

送り主:不明
件名:なし

(……また……)

嫌な予感が指先を冷やす。

メッセージを開いた瞬間――
由奈の呼吸が止まった。

そこには、写真が添付されていた。

画面いっぱいに映ったのは、
明らかに“隼人と麗華”の姿。

隼人の肩に、
麗華が手を添えて微笑んでいる。

角度のせいで――
まるで抱き合っているようにさえ見える。

由奈の手が震えた。

「えっ……これ……」

隼人も覗き込み、
眉を深くひそめる。

「……これは……」

瞬間、怒りで息が荒くなる。

(こんな……
俺はこんなことしてない!!!)

写真は完全に“仕組まれた角度”だった。

隼人が階段で麗華に呼び止められたときのもの。
その場に街角カメラのような位置から
誰かが撮影したのだろう。

麗華の指が隼人の肩に軽く触れただけ。
だが角度と距離を切り取れば――
濃密な距離感に見える。

由奈の視界から色が消える。

(うそ……
隼人さん……
麗華さんと……)

頭の中が真っ白になり、
心臓が痛みで痙攣する。

隼人はすぐに由奈の手を握る。

「由奈、違う。これは……」

けれど由奈の嗚咽が震える。

「だって……
ほんとに……仲が……良さそうで……」

隼人は強く首を振る。

「違う!!!
これは……絶対に誰かが撮ったんだ。
俺たちの関係を壊すために」

(“誰か”……
そんなの……ひとりしかいない)

隼人は気づいた。
由奈も気づいた。

そして――
その“送り主”から、
追い打ちのメッセージが届く。



《これが現実よ。
逃げないで》



由奈の全身が凍りついた。

この文体。
この“見下ろすような言葉”。

――麗華。

隼人も同じ瞬間に確信した。

由奈が震える声で呟く。

「どうして……
どうして……こんなこと……」

隼人は由奈の手を包み込むように握る。

「由奈……聞いてくれ。
俺は……一度も……麗華に触れたことなんてない」

「でも……写真で……」

「写真なんかより、
俺が由奈をどう思ってるか……
それで判断してほしい」

隼人の声は震えていたが、
その瞳はまっすぐだった。

「俺が好きなのは……
由奈だけだ」

その言葉に、
由奈の目が潤む。

でも――
胸の痛みは消えない。

(信じたい……
でも……麗華さんが“嘘を混ぜた善意”を
何度も言ってきた……)

隼人は立ち上がる。

「……麗華に会ってくる」

由奈の目が大きく開かれた。

「ま、待って……!」

「大丈夫だ。
俺は怒鳴ったりしない。
ただ……確認するだけだ」

(嘘だ。
怒らないわけがない)

隼人の肩から、
怒りの気配が溢れている。

握った拳が震えている。

「由奈をこんな目に遭わせたやつを……
見逃せるわけがない」

隼人の声は低く、
静かな怒りに満ちていた。

由奈は不安そうに隼人の袖を掴む。

「隼人さん……
私のために、そんな……」

隼人は由奈の手を握り返す。

「由奈のために決まってるだろ」

そのやさしさに、
由奈の胸が痛くてたまらなくなる。

隼人は玄関に向かい、
靴を履きながら言った。

「すぐ戻る。
絶対に……一人にしないから」

その背中は、
怒りと決意で震えていた。

扉が閉まる直前、
隼人は振り返って言った。

「――俺の由奈を、
誰にも奪わせない」

扉が閉じる。

カチリ。

隼人が向かう先。
それは――

麗華の元。

嵐の前の静けさは、
ここで終わりを迎えた。