リビングの空気が、
まるで冷え切った冬のように重く張りつめていた。
隼人の声が反響し、
その余韻が由奈の胸に痛く落ちた。
「麗華を信じるな!」
激しい声ではなかった。
けれど、その必死さが逆に心を乱す。
由奈は唇を震わせながら言う。
「……だって……
麗華さんは……隼人さんのこと……昔から知ってて……
私より……ずっと……」
声が途切れた。
本当は言いたくない言葉だった。
言えば言うほど、自分が惨めになるから。
隼人は由奈の言葉に眉をひそめ、
苦しげに目を閉じた。
(……また、俺より他人を信じてる)
胸が締めつけられる。
隼人はゆっくり視線を上げ、語気を抑えて言った。
「由奈……
俺は、麗華には何も相談していない。
何もだ」
その言葉は真実だった。
しかし――
由奈にはそう聞こえなかった。
胸の奥で、
「麗華が嘘をつくはずない」という思い込みが
痛いほど疼いていた。
(隼人さんは優しいから……
私を傷つけないように嘘をついているだけ……)
そんな誤解が、由奈の胸を掴む。
だから、口を開いてしまった。
「……隼人さん。
本当のこと……言ってください」
隼人の目が見開かれる。
「どうして、俺が嘘をつくと思うんだ?」
その問いに、
由奈は答えられなかった。
言葉を探せば探すほど、苦しくなる。
(だって……麗華さんは……
隼人さんが“距離を置きたい”って言ってたって……
そう言ったんだもの……)
言えない。
言ったら隼人を傷つける。
沈黙が、ふたりの間に落ちた。
隼人は、
その沈黙を“拒絶”と受け取ってしまう。
(……俺は、由奈に何一つ信じてもらえていない)
胸の奥が、ひどく痛んだ。
隼人は息を吸い、
言葉を選びながら言った。
「由奈……
さっきのメッセージは俺じゃない。
信じてくれ」
由奈は震える声で答える。
「……でも……
麗華さんは……
“隼人が距離を置きたがっている”って……」
隼人の眉間が深く寄る。
「麗華が言ったから信じるのか?
俺じゃなくて?」
由奈の体がびくっと震える。
その震えが、
隼人の胸をさらに締めつける。
隼人は必死に声を抑えるが、
どうしても感情がにじみ出てしまう。
「……そんなに俺は……信用できない?」
痛みのにじんだ声。
けれど由奈には、
その痛みを受け止める余裕がなかった。
(隼人さんこそ……
私を信用していないんじゃ……)
心の奥に巣食った不安が
由奈の口を動かした。
「隼人さんだって……
私に、話してくれないじゃないですか……
触れようとしてくれないじゃないですか……」
隼人の呼吸が止まる。
(……触れたいんだよ。
抱きしめたいほど、触れたいんだ……
でも……泣かせるのが怖くて……)
心の中の言葉は出てこない。
隼人はただ、
苦しげに目を逸らした。
「……それは……違う。
違うんだ、由奈」
「じゃあ……教えてください」
由奈の声は震え、
こぼれ落ちそうな涙を必死にこらえていた。
「どうして……
隼人さんは……私に触れないんですか?」
隼人の喉がきゅっと締まった。
言えるわけがない。
“触れられなくなった理由”を言えば、
由奈が泣く。
泣くのが怖い。
泣かせたくない。
でも、言わなければ――
信頼が壊れる。
その矛盾が胸を締めつける。
隼人は言葉を探したが、
沈黙しか出てこなかった。
由奈はその沈黙を“拒絶”だと勘違いした。
(……ああ。本当に……
触れられたくないんだ)
由奈は胸の奥に鋭い痛みを感じ、
かすかに後ずさる。
隼人がその動きを見た瞬間、
表情が苦しさに歪む。
(……避けられた)
(……嫌われた)
ふたりの誤解が、
深く、深く、突き刺さる。
⸻
そのとき。
由奈のスマホが震えた。
“ピッ”
画面を見ると――
祐真の名前が浮かんでいた。
《少し話せるか?》
由奈の顔が強張る。
隼人の視線が、
そのメッセージを捉えた。
祐真の名前が、
隼人の胸に火をつける。
(……また、あいつか)
嫉妬と焦りが一気に爆発しそうになる。
「……誰からだ」
隼人の声は低く、
冷えた怒りが滲んでいた。
由奈は答えられなかった。
嘘をつけば隼人を裏切る。
本当のことを言えば隼人を怒らせる。
そのどちらも怖かった。
隼人はその沈黙に、
また心を抉られた。
(……本当に……
俺じゃなくて、あいつに……)
胸の奥がズキズキと痛む。
信頼は、
今まさに崩れかけていた。
まるで冷え切った冬のように重く張りつめていた。
隼人の声が反響し、
その余韻が由奈の胸に痛く落ちた。
「麗華を信じるな!」
激しい声ではなかった。
けれど、その必死さが逆に心を乱す。
由奈は唇を震わせながら言う。
「……だって……
麗華さんは……隼人さんのこと……昔から知ってて……
私より……ずっと……」
声が途切れた。
本当は言いたくない言葉だった。
言えば言うほど、自分が惨めになるから。
隼人は由奈の言葉に眉をひそめ、
苦しげに目を閉じた。
(……また、俺より他人を信じてる)
胸が締めつけられる。
隼人はゆっくり視線を上げ、語気を抑えて言った。
「由奈……
俺は、麗華には何も相談していない。
何もだ」
その言葉は真実だった。
しかし――
由奈にはそう聞こえなかった。
胸の奥で、
「麗華が嘘をつくはずない」という思い込みが
痛いほど疼いていた。
(隼人さんは優しいから……
私を傷つけないように嘘をついているだけ……)
そんな誤解が、由奈の胸を掴む。
だから、口を開いてしまった。
「……隼人さん。
本当のこと……言ってください」
隼人の目が見開かれる。
「どうして、俺が嘘をつくと思うんだ?」
その問いに、
由奈は答えられなかった。
言葉を探せば探すほど、苦しくなる。
(だって……麗華さんは……
隼人さんが“距離を置きたい”って言ってたって……
そう言ったんだもの……)
言えない。
言ったら隼人を傷つける。
沈黙が、ふたりの間に落ちた。
隼人は、
その沈黙を“拒絶”と受け取ってしまう。
(……俺は、由奈に何一つ信じてもらえていない)
胸の奥が、ひどく痛んだ。
隼人は息を吸い、
言葉を選びながら言った。
「由奈……
さっきのメッセージは俺じゃない。
信じてくれ」
由奈は震える声で答える。
「……でも……
麗華さんは……
“隼人が距離を置きたがっている”って……」
隼人の眉間が深く寄る。
「麗華が言ったから信じるのか?
俺じゃなくて?」
由奈の体がびくっと震える。
その震えが、
隼人の胸をさらに締めつける。
隼人は必死に声を抑えるが、
どうしても感情がにじみ出てしまう。
「……そんなに俺は……信用できない?」
痛みのにじんだ声。
けれど由奈には、
その痛みを受け止める余裕がなかった。
(隼人さんこそ……
私を信用していないんじゃ……)
心の奥に巣食った不安が
由奈の口を動かした。
「隼人さんだって……
私に、話してくれないじゃないですか……
触れようとしてくれないじゃないですか……」
隼人の呼吸が止まる。
(……触れたいんだよ。
抱きしめたいほど、触れたいんだ……
でも……泣かせるのが怖くて……)
心の中の言葉は出てこない。
隼人はただ、
苦しげに目を逸らした。
「……それは……違う。
違うんだ、由奈」
「じゃあ……教えてください」
由奈の声は震え、
こぼれ落ちそうな涙を必死にこらえていた。
「どうして……
隼人さんは……私に触れないんですか?」
隼人の喉がきゅっと締まった。
言えるわけがない。
“触れられなくなった理由”を言えば、
由奈が泣く。
泣くのが怖い。
泣かせたくない。
でも、言わなければ――
信頼が壊れる。
その矛盾が胸を締めつける。
隼人は言葉を探したが、
沈黙しか出てこなかった。
由奈はその沈黙を“拒絶”だと勘違いした。
(……ああ。本当に……
触れられたくないんだ)
由奈は胸の奥に鋭い痛みを感じ、
かすかに後ずさる。
隼人がその動きを見た瞬間、
表情が苦しさに歪む。
(……避けられた)
(……嫌われた)
ふたりの誤解が、
深く、深く、突き刺さる。
⸻
そのとき。
由奈のスマホが震えた。
“ピッ”
画面を見ると――
祐真の名前が浮かんでいた。
《少し話せるか?》
由奈の顔が強張る。
隼人の視線が、
そのメッセージを捉えた。
祐真の名前が、
隼人の胸に火をつける。
(……また、あいつか)
嫉妬と焦りが一気に爆発しそうになる。
「……誰からだ」
隼人の声は低く、
冷えた怒りが滲んでいた。
由奈は答えられなかった。
嘘をつけば隼人を裏切る。
本当のことを言えば隼人を怒らせる。
そのどちらも怖かった。
隼人はその沈黙に、
また心を抉られた。
(……本当に……
俺じゃなくて、あいつに……)
胸の奥がズキズキと痛む。
信頼は、
今まさに崩れかけていた。

