蒼銀の王女と誓約の騎士〜生贄として連れてこられた神殿で、千年の眠りから覚めた騎士と出逢いました〜

昨夜、
自分が生贄にされそうになった事実が蘇り、
胸がじんと痛む。
だが、すぐ隣でセドリクスが静かに言葉を重ねた。

「安心しろ。千年前と同じだ──
 あなたが望む限り、私はあなたを守る。」

その声音には迷いもためらいもなく、
しかし昨夜の焚き火の時と同じ、
あの優しさがほんのり混ざっていた。

エリシアの心臓が、ぽん、と小さく跳ねる。

「……じゃあ、行こう。セドリクスが言うなら……信じる」

セドリクスの瞳が、僅かに揺れた。
彼はなぜか視線を逸らし、
低い声で呟くように答えた。

「……その言葉は……あまりに重い。」

「え?」

「いや……行こう。避難所は、森のさらに奥──
 《蒼銀の門》の先にある。」

エリシアには意味がよくわからなかったが、
セドリクスの声が震えたのだけは感じ取れた。

まるでその“信じる”という言葉が、
千年前の誰かを思い出させるように。

エリシアは胸が少しざわつく。
これが何の感情なのか、まだわからない
──でも、嫌ではない。
むしろ、ほんの少しだけ胸が温かくなった。

二人は荷物を整え、
朝露に濡れた草を踏みしめながら、
森の奥へと足を進めた。

千年の時を越えて待ち続けた者と、
自分の出自すら知らぬ少女の、
新たな旅路が始まろうとしていた。