夜が明けると、再び旅路が始まった。
雪蘭は眠れぬ夜を越えたせいで、少し瞼が重い。
けれど、馬車の外に広がる風景は、
その疲れを癒やしてくれるほどに穏やかだった。
果てしなく続く大地。
金色の穂が風に揺れ、青い空がどこまでも澄んでいる。
道の脇には低木が続き、
ときおり木陰から何かの気配を感じる。
「……あっ」
雪蘭は思わず小さく声を漏らした。
木立の間に、白い鹿がいた。
その姿は陽光を受けて淡く光り、
風に揺れる草花の中で、
まるで夢の中の幻のように見えた。
雪蘭は目を細め、その神秘的な姿に見入った。

「このあたりには、鹿がいるのですね」
対面に座る凌暁へ向けて、恐る恐る言葉を投げる。
「鹿?」
凌暁は眉をひそめ、窓の外を見やった。
だが、そこには何もいない。
風が草を揺らすだけだった。
「……そんなものはどこにもいないが」
「……そう、ですか」
雪蘭は慌てて視線を伏せた。
気まずい沈黙が、馬車の中に落ちる。
彼女は“また余計なことを言ってしまった”と、
自分を責めた。
その沈黙の中で、彼女の胸に小さな痛みが灯る。
――きっと、また“視えるもの”のせい。
もう、これ以上話しかけない方がいいかもしれない。
そう思うと、胸が締めつけられた。
雪蘭は眠れぬ夜を越えたせいで、少し瞼が重い。
けれど、馬車の外に広がる風景は、
その疲れを癒やしてくれるほどに穏やかだった。
果てしなく続く大地。
金色の穂が風に揺れ、青い空がどこまでも澄んでいる。
道の脇には低木が続き、
ときおり木陰から何かの気配を感じる。
「……あっ」
雪蘭は思わず小さく声を漏らした。
木立の間に、白い鹿がいた。
その姿は陽光を受けて淡く光り、
風に揺れる草花の中で、
まるで夢の中の幻のように見えた。
雪蘭は目を細め、その神秘的な姿に見入った。

「このあたりには、鹿がいるのですね」
対面に座る凌暁へ向けて、恐る恐る言葉を投げる。
「鹿?」
凌暁は眉をひそめ、窓の外を見やった。
だが、そこには何もいない。
風が草を揺らすだけだった。
「……そんなものはどこにもいないが」
「……そう、ですか」
雪蘭は慌てて視線を伏せた。
気まずい沈黙が、馬車の中に落ちる。
彼女は“また余計なことを言ってしまった”と、
自分を責めた。
その沈黙の中で、彼女の胸に小さな痛みが灯る。
――きっと、また“視えるもの”のせい。
もう、これ以上話しかけない方がいいかもしれない。
そう思うと、胸が締めつけられた。



