まもなくして、慌ただしい足音が近づく。

蓮音をはじめとした神官たちが、
寝殿へ押し入るように駆け込んできたのだ。
騒ぎを聞きつけた他国の国主や妃たちも
興味津々な眼差しをこちらに向けていた。

「雪蘭様のお身体が光を発していると……!これはまさか――」
「霊力が雪蘭様を取り込もうとしているのでは?」
「早く結界を!祓詞を唱えよ!」

神官たちは雪蘭を囲み、
急ぎお祓いの儀を始めた。
霊鏡の前で神気にあてられた影響
――その残滓が、ついに雪蘭の身体に表れたのだと
誰もが直感していた。

神官の祓詞が重なり、
結界の紋が床に淡く浮かび上がる。
その中心で雪蘭の身体を包む光は、
次第に弱まり、
透けていた輪郭がゆっくりと戻っていった。

――やがて。
「……戻っていく……?」
雪蘭は自分の手を見つめ、
小さく息を呑んだ。
凌暁はその手をそっと取り、確かな温もりを確認すると、
ようやく安堵の息をついた。
雪蘭の目にも安堵の涙が光る。

だが、寝殿にいた誰もが理解していた。

これは“兆し”だ。
長らく途絶えていた加護が、
今年こそ再び姿を表す――
これはその前触れに違いない、と。

緊張と期待の入り混じる空気の中、
雪蘭と凌暁は息を呑んで見つめ合った。

この日、運命は静かに動き出したのである。