夜明け前の薄明が寝殿の障子を淡く照らし出す。
静かな気配の中で、
凌暁はゆっくりと目を開いた。

すぐそばで、雪蘭が小さく寝息を立てている。
昨夜から寄り添ったまま、
彼の腕の中で眠っていた。
その穏やかな寝顔に、
凌暁はそっと息を吐こうとした――が。

次の瞬間、彼の全身が強張った。

雪蘭の身体が、うっすらと光を帯びながら――
輪郭が透けている。

「……雪蘭?」

声が震えた。
 瞬きしても幻ではない。
胸の奥に冷たいものが落ちていく。

「雪蘭ッ!!」
抱き寄せていた腕でその肩を掴み、
揺さぶるように叫ぶ。
雪蘭はびくりと身体を震わせ、
はっと目を開いた。
「凌暁様……? どう、したのですか――」

言いかけて、自分の手を見下ろす。

光っている。
透けている。
自分の肌が、自分の腕が
――存在が空気にとけてゆくようだった。

「え……? えっ……!」
恐怖が一瞬で雪蘭を飲み込み、
凌暁にすがろうと手を伸ばした。

しかし。
その手は、凌暁の胸を捉えることなく――すり抜けた。
「……っ!」
雪蘭の顔から血の気が引く。
凌暁もまた心臓を掴まれたような感覚に襲われた。

「凌暁様……!! 私、どうなってしまうのでしょう……っ!」
声が震え、涙が縁に溜まる。
凌暁は彼女の両肩をしっかりと抱えようとしたが、
そこにもほのかな抵抗しかなく、
指先が霧を掴むようだった。
「大丈夫だ、雪蘭。必ず――必ず何とかする!」

それは強がりではない。
彼自身も恐ろしかったが、
それ以上に、
この世界から雪蘭が消えてしまうかのような可能性が、
耐え難かったのだ。