その夜。
国主たちはそれぞれに与えられた寝殿へと戻る。
凌暁と雪蘭も、
天啓の山中に設けられた
「主殿(しゅでん)」の一室に案内された。
無駄な装飾が省かれた静かな部屋。
室内は広く、香が焚かれている。
だが――
寝台の上には、
布団が二枚ぴたりと並んで敷かれている。
「……え……」
雪蘭は小さく息を呑む。
(な、並んでいる……!?)
すかさず雪蘭は凌暁を横目に見た。
道中では、
彼は雪蘭と寝台を共にしようとしなかった。
ここでもそうなのだろうか。
凌暁は特に動じることもなく、
外套を脱ぎながら淡々と告げた。
「雪蘭殿の休む場所は、こちらでいいだろう。寒さも厳しい。火は絶やさぬようにしておく。」
布団の一つを
暖かい火が燃えている囲炉裏のそばに近づけた。
「は、はい……」
声が裏返りそうになる。
沈黙。
凌暁は無駄な言葉を一切発せず、
湯を口にして書物を開いた。
雪蘭は気まずさに耐えきれず、
視線を床に落としたまま膝を抱える。
(な、なぜそんなに平然としていられるの……)
火の明かりが二人の間を照らす。
距離はほんの一間。
けれど心の間には、
まだ誰も越えられない静かな壁があった。
国主たちはそれぞれに与えられた寝殿へと戻る。
凌暁と雪蘭も、
天啓の山中に設けられた
「主殿(しゅでん)」の一室に案内された。
無駄な装飾が省かれた静かな部屋。
室内は広く、香が焚かれている。
だが――
寝台の上には、
布団が二枚ぴたりと並んで敷かれている。
「……え……」
雪蘭は小さく息を呑む。
(な、並んでいる……!?)
すかさず雪蘭は凌暁を横目に見た。
道中では、
彼は雪蘭と寝台を共にしようとしなかった。
ここでもそうなのだろうか。
凌暁は特に動じることもなく、
外套を脱ぎながら淡々と告げた。
「雪蘭殿の休む場所は、こちらでいいだろう。寒さも厳しい。火は絶やさぬようにしておく。」
布団の一つを
暖かい火が燃えている囲炉裏のそばに近づけた。
「は、はい……」
声が裏返りそうになる。
沈黙。
凌暁は無駄な言葉を一切発せず、
湯を口にして書物を開いた。
雪蘭は気まずさに耐えきれず、
視線を床に落としたまま膝を抱える。
(な、なぜそんなに平然としていられるの……)
火の明かりが二人の間を照らす。
距離はほんの一間。
けれど心の間には、
まだ誰も越えられない静かな壁があった。



