その夜も、宿に着くと凌暁は「夜風を浴びてくる」と言って外へ出た。
雪蘭は寝台に横になりながら、
静かに目を閉じた。
悲しい気持ちに苛まれて、
何度もため息を吐きながらやり過ごしていたが、
いつしか意識が沈み、夢の中に落ちていく――。
白い霧の中に、昼に見た鹿がいた。
鹿は彼女の方を振り向き、
金色の瞳でまっすぐ見つめてくる。
角は天へ伸び、風が吹くたびに淡い光を放つ。
『お前が愛し、信じる者の中に――光は現れよう』
その声は、鹿の口からではなく、
霧そのものが語りかけてくるようだった。
雪蘭はその言葉の意味を問おうとするが、
夢の中の彼女は声を上げることができなかった。
鹿に触れようと手を伸ばすが、
指先が届く前に霧がゆっくりと崩れ、
すっと視界が遠のいていった。
そして夜明け。
鳥のさえずりが響く中、
雪蘭ははっと目を覚ました。
夢の余韻がまだ胸の奥に残っている。
――あの鹿の声。
まるで、何かを伝えようとしていたような……。
ふと、夢の話を凌暁にしてみようかと思った。
でも、昼の「鹿はいない」という一言がよみがえる。
ただの夢だと笑われるかもしれない。
あるいは、また気味悪がられるかもしれない。
雪蘭は小さく首を振って、
ふと湧き上がった思いを飲み込んだ。
雪蘭は寝台に横になりながら、
静かに目を閉じた。
悲しい気持ちに苛まれて、
何度もため息を吐きながらやり過ごしていたが、
いつしか意識が沈み、夢の中に落ちていく――。
白い霧の中に、昼に見た鹿がいた。
鹿は彼女の方を振り向き、
金色の瞳でまっすぐ見つめてくる。
角は天へ伸び、風が吹くたびに淡い光を放つ。
『お前が愛し、信じる者の中に――光は現れよう』
その声は、鹿の口からではなく、
霧そのものが語りかけてくるようだった。
雪蘭はその言葉の意味を問おうとするが、
夢の中の彼女は声を上げることができなかった。
鹿に触れようと手を伸ばすが、
指先が届く前に霧がゆっくりと崩れ、
すっと視界が遠のいていった。
そして夜明け。
鳥のさえずりが響く中、
雪蘭ははっと目を覚ました。
夢の余韻がまだ胸の奥に残っている。
――あの鹿の声。
まるで、何かを伝えようとしていたような……。
ふと、夢の話を凌暁にしてみようかと思った。
でも、昼の「鹿はいない」という一言がよみがえる。
ただの夢だと笑われるかもしれない。
あるいは、また気味悪がられるかもしれない。
雪蘭は小さく首を振って、
ふと湧き上がった思いを飲み込んだ。



