◯一花のユリ農家。広い敷地には作業小屋の他に10棟ほどのビニールハウスが立ち並び、水田もある。
◯家は新築の二階建ての一軒家。
一花「ただいまー。」
◯ジャージのまま帰宅した一花、玄関に入ると泥だらけの男性物の長靴を見つける。
◯一花は顏を歪めて不満げに呟く。
一花「何でいるのよ…。」
◯玄関ドアを開いて作業小屋を確認すると、灯りが付いているのが見える。
◯繁忙期なので、家族全員(義理父・母・双子の妹とパートさん三人)で夜まで作業をしている。
◯一直線に廊下から台所に入ろうとした一花。
哲夫「おー、おかえり一花さん。」
◯ペットボトルのお茶を持った義理父の哲夫(ストライプの作業着・長袖のつなぎ、頭には黒いタオルを巻いている)と出合い頭にぶつかりそうになる。
一花「あ、スミマセン。」
哲夫「ハハ。自分ちなのに、スミマセンはないでしょ。」
一花「…哲夫さんとママの新居ですから。」
◯一瞬、哲夫の顔が曇るが、すぐに優しげな笑顔になる。
哲夫「ママと二花と三花はまだ納屋で作業してるけど、飯は台所にあるから温めて食べてね。」
一花「はい。」
哲夫「学校は楽しいかい? 」
一花「それなりに。」
哲夫「何か困ったことがあったら相談してね。」
一花(ぜったいに無理!)
◯哲夫を避けるように下を向いて台所に入ろうとする一花。
◯インターホンのメロディが鳴り響く。
哲夫「大丈夫、俺が出るよ。」
◯バタバタと哲夫が玄関に走る。
哲夫「ウオッ!」
◯哲夫の野太い悲鳴が聞こえる。
◯ビクッとした一花は台所から半身を出して廊下の先を伺う。
一花「あの~哲夫さん、本当にだいじょぶ?」
◯哲夫の返事がない。
一花「もう…。」
◯哲夫を心配して玄関を見に行った一花。
◯玄関に佇む哲夫の背中越しに、開け放たれた玄関ドアの向こうの景色が目に飛び込んでくる。
一花「キャア!」
◯轟家の玄関先の一角に、大砂物と呼ばれる大きな立花(松の木の生け花)が飾られている。
◯その横にはクレーンを積んだ白い四トントラックとヘルメット姿の作業員が十人ほど立ち並び、着物姿のカヲルが佇んでいる。
カヲル「こんばんは。」
一花「真行寺カヲル⁉」
哲夫「一花さんの学校のお友だち?」
カヲル「そうです。」
一花「学校は違うでしょ! どうしてここに…って、このデカイ松はなに⁉ 」
カヲル「これが、金持ちのままごと遊びだよ。」
一花「これが生け花⁉」
カヲル「俺を知ってもらう名刺代わりに生けてみたんだ。」
哲夫「名刺にしてはデカすぎでは…。」
◯顎が外れるほど口を開けている哲夫も、思わずツッコむ。
一花「いますぐに撤去してお帰りください!」
◯騒ぎを聞きつけた一花の母・花澄(黄色いつなぎに白いキャップ・長靴)と中学生の双子の妹・二花と三花(ピンクのつなぎに長靴)も駆けつける。
佳澄「何の騒ぎ…?」
◯花澄がカヲルを見た途端に目がハートになる。
◯双子の妹たちも黄色い悲鳴を上げる。
花澄「し、真行寺カヲルさまァ⁉」
哲夫「え、真行寺って、あの華道家の?」
一花(コイツって、そんなに有名人なの?)
◯色めき立つ家族にカヲルが本題を切り出す。
カヲル「突然押しかけて申し訳ありません。
実は本日、日農高校で一花さんの育てたユリに出会ったのがきっかけでこちらを訪問させて頂きました。」
花澄「ユリ?」
カヲル「それが本当に完璧なユリで、俺は彼女に売買交渉したんです。」
◯花澄がそっぽを向いている一花の腕を突く。
花澄「ちょっと一花、やるじゃない!
家の仕事も手伝わないクセに学校でユリを育ててたの? 」
一花「ほっといてよ…。」
カヲル「しかし、断られました。」
花澄「はぁ――?」
◯花澄が目をひん剥いて一花を見る。
花澄「な、なんで断ったのよ⁉ 」
一花「どうでもいいでしょ。」
花澄「真行寺さまは華道界のプリンスよ? 声をかけられただけでも名誉なことなのに…!」
カヲル「もう一度考え直してほしくて、こうして押しかけた次第です。」
哲夫「真行寺さんがここまで言ってくれてるんだから…一花ちゃん、考え直してみたらどうだい?」
◯そこに居る全員の視線が一花に集まる。
◯一花が低いトーンの声を絞り出す。
一花「…生け花にだけは使われたくない。」
花澄「どうして?」
一花「生け花なんて花の生殺しだって、死んだパパも言ってたもん!」
◯静まり返る一同。
◯大砂物を見上げた哲夫がポツリと呟く。
哲夫「僕、華道のことはよく分からないけど…この松の木はすごく生き生きとして見えるよねぇ。」
花澄「ホントね。根もないのに不思議だわ。」
二花「めっちゃくちゃ綺麗だしオシャレ!」
三花「ねー、真行寺さんと写真撮ってニンスタに上げてもいい?」
◯ワイワイと賑わう家族たち。
◯一花も改めて大砂物を見上げる。
◯夕闇に早めの満月が浮かんでいる。それを背景に佇む重厚感溢れる木の枝は四方八方に自由に張り巡らされていて、まるで絵画のように芸術的。
◯一花が思わず呟く。
一花「綺麗。」
◯大砂物に見惚れる一花に気がついたカヲルが、微かに微笑む。
◯カヲルに群がる双子を押しのけて、花澄がカヲルに話しかける。
花澄「あの、真行寺さまっ。ウチはユリ農家なんで花ならたくさんありますよ!
農協に卸す数は決まってるけど、それ以外にも使える花材があるかもしれないし、もし良かったらハウスを見ていかれませんか?」
一花「ママ…⁉」
カヲル「いいんですか?」
哲夫「もちろんです、さあどうぞ!」
一花「ちょっ…。」
◯あっという間にカヲルを取り囲んだ家族がワイワイとビニールハウスに移動する。
◯家族がカヲルを受け入れるスピードの早さに一花が頭を抱える。
一花「ウチの家族もアタオカすぎ!」
♢
◯花の選花台や花を入れるプラスチックバケツがたくさんある作業小屋の中。
◯山のように積まれた細長い段ボール箱にはユリや他の高級花が収められていて、その全てをカヲルが買い取ることになった。
◯カヲルが提示した花の金額に喜び・舞い踊る両親。
一花「本当にコレ、全部買うつもりなの?」
◯呆れ顔の一花が作業小屋の横にカヲルを引っ張り出して釘を刺す。
◯カヲルがクスクス笑い、合掌のように一花に手を合わせる。
カヲル「いつもは花の顏だけを見て選別していたけど、こうして生産者さんたちを見て、花を見て、それから作品をイメージするということが、自分にとっては良い刺激になったと思う。
こういう機会を与えてくれたあなたに、感謝してるよ俺は。」
一花「…どうして?」
カヲル「え?」
一花「私、ヒドイことをしたじゃん。」
◯キョトンとした顏のカヲル。
◯一花が苦しげに心の内を吐き出す。
一花「今日初めて会ったあなたのことを勝手に花泥棒だと決めつけて殴ったし、生け花のことも侮辱した。
ムカつくでしょ、フツーは?」
カヲル「普通、か。」
◯カヲルが少し考えてから一花を見つめる。
カヲル「残念なことに、俺の周りには普通を教えてくれる人間が誰も居ないんだ。」
一花「へ?」
カヲル「今日、清々しいくらい本音を言う君を見て、俺はむしろ嬉しかった。」
一花「そうなんだ…。」
カヲル「女子に殴られるのも初体験で新鮮だった。」
一花「それは…ホントにゴメンて!」
◯苦笑いをする一花。
カヲル「君のことをもっと知りたい。」
◯月がカヲルを照らし、大輪の花のつぼみが開くように笑顔になるカヲル。
◯顏を赤くする一花。
一花(つまりドSってこと⁉)
♢
◯次の日の日農高校。登校する生徒たち。
◯一花のクラスで朝のHRが始まり、初老の担任の佐藤が登壇。
佐藤「えー。突然だが、転校生…いや、留学生を紹介する。」
◯佐藤がハンカチで汗を拭きながら廊下に居る留学生に声をかける。
佐藤「入って自己紹介をして。」
◯颯爽と教室に入って来たのはカヲル。
◯日農高校のブレザーに身を包んでいる。
カヲル「日本学術院から来ました真行寺カヲルです。国内地域留学制度を利用して、一年間だけ日農高校に通うことになりました。」
◯持っていたシャープペンシルをポトリと机に落とす一花。
一花「どっ、どゆこと?」
◯有名人のカヲルの出現に色めき立つ女子と胡散臭そうに騒ぐ男子たち。
男子「真行寺って華王子のCMの?」
女子「テレビ番組の企画じゃないよね⁉」
女子「カメラはどこッ⁉」
男子「なんで華道の御曹司が、こんな田舎の低ランク高校に来るんだよ⁉」
◯カヲルがCMのように指を唇に当てる。
◯静まり返る教室。
カヲル「家が華道の名門というだけで、俺はずっと決められたレールを走ってきた。
右に曲がれと言われれば右、その逆も然りだ。」
◯ゴクリと生唾を飲み込む生徒たち。
カヲル「長い人生の中で、一度くらいは脱線して空を飛んでみたいとは思わないか?」
◯一花がお手上げのジェスチャーをする。
一花(やっぱ変人のアタオカだわ!)
◯再びザワつく教室。
◯一番前の席の眼鏡女子がサッと挙手をする。
女子「華道以外の好きなことって何ですか?」
カヲル「轟一花!」
生徒一同「ヒューッ!」
女子「一花? 知り合いなの⁉」
◯静かだった教室が一気に爆発したように盛り上がり、全員の目が一花に集中する。
一花「あ…たし?」
◯家は新築の二階建ての一軒家。
一花「ただいまー。」
◯ジャージのまま帰宅した一花、玄関に入ると泥だらけの男性物の長靴を見つける。
◯一花は顏を歪めて不満げに呟く。
一花「何でいるのよ…。」
◯玄関ドアを開いて作業小屋を確認すると、灯りが付いているのが見える。
◯繁忙期なので、家族全員(義理父・母・双子の妹とパートさん三人)で夜まで作業をしている。
◯一直線に廊下から台所に入ろうとした一花。
哲夫「おー、おかえり一花さん。」
◯ペットボトルのお茶を持った義理父の哲夫(ストライプの作業着・長袖のつなぎ、頭には黒いタオルを巻いている)と出合い頭にぶつかりそうになる。
一花「あ、スミマセン。」
哲夫「ハハ。自分ちなのに、スミマセンはないでしょ。」
一花「…哲夫さんとママの新居ですから。」
◯一瞬、哲夫の顔が曇るが、すぐに優しげな笑顔になる。
哲夫「ママと二花と三花はまだ納屋で作業してるけど、飯は台所にあるから温めて食べてね。」
一花「はい。」
哲夫「学校は楽しいかい? 」
一花「それなりに。」
哲夫「何か困ったことがあったら相談してね。」
一花(ぜったいに無理!)
◯哲夫を避けるように下を向いて台所に入ろうとする一花。
◯インターホンのメロディが鳴り響く。
哲夫「大丈夫、俺が出るよ。」
◯バタバタと哲夫が玄関に走る。
哲夫「ウオッ!」
◯哲夫の野太い悲鳴が聞こえる。
◯ビクッとした一花は台所から半身を出して廊下の先を伺う。
一花「あの~哲夫さん、本当にだいじょぶ?」
◯哲夫の返事がない。
一花「もう…。」
◯哲夫を心配して玄関を見に行った一花。
◯玄関に佇む哲夫の背中越しに、開け放たれた玄関ドアの向こうの景色が目に飛び込んでくる。
一花「キャア!」
◯轟家の玄関先の一角に、大砂物と呼ばれる大きな立花(松の木の生け花)が飾られている。
◯その横にはクレーンを積んだ白い四トントラックとヘルメット姿の作業員が十人ほど立ち並び、着物姿のカヲルが佇んでいる。
カヲル「こんばんは。」
一花「真行寺カヲル⁉」
哲夫「一花さんの学校のお友だち?」
カヲル「そうです。」
一花「学校は違うでしょ! どうしてここに…って、このデカイ松はなに⁉ 」
カヲル「これが、金持ちのままごと遊びだよ。」
一花「これが生け花⁉」
カヲル「俺を知ってもらう名刺代わりに生けてみたんだ。」
哲夫「名刺にしてはデカすぎでは…。」
◯顎が外れるほど口を開けている哲夫も、思わずツッコむ。
一花「いますぐに撤去してお帰りください!」
◯騒ぎを聞きつけた一花の母・花澄(黄色いつなぎに白いキャップ・長靴)と中学生の双子の妹・二花と三花(ピンクのつなぎに長靴)も駆けつける。
佳澄「何の騒ぎ…?」
◯花澄がカヲルを見た途端に目がハートになる。
◯双子の妹たちも黄色い悲鳴を上げる。
花澄「し、真行寺カヲルさまァ⁉」
哲夫「え、真行寺って、あの華道家の?」
一花(コイツって、そんなに有名人なの?)
◯色めき立つ家族にカヲルが本題を切り出す。
カヲル「突然押しかけて申し訳ありません。
実は本日、日農高校で一花さんの育てたユリに出会ったのがきっかけでこちらを訪問させて頂きました。」
花澄「ユリ?」
カヲル「それが本当に完璧なユリで、俺は彼女に売買交渉したんです。」
◯花澄がそっぽを向いている一花の腕を突く。
花澄「ちょっと一花、やるじゃない!
家の仕事も手伝わないクセに学校でユリを育ててたの? 」
一花「ほっといてよ…。」
カヲル「しかし、断られました。」
花澄「はぁ――?」
◯花澄が目をひん剥いて一花を見る。
花澄「な、なんで断ったのよ⁉ 」
一花「どうでもいいでしょ。」
花澄「真行寺さまは華道界のプリンスよ? 声をかけられただけでも名誉なことなのに…!」
カヲル「もう一度考え直してほしくて、こうして押しかけた次第です。」
哲夫「真行寺さんがここまで言ってくれてるんだから…一花ちゃん、考え直してみたらどうだい?」
◯そこに居る全員の視線が一花に集まる。
◯一花が低いトーンの声を絞り出す。
一花「…生け花にだけは使われたくない。」
花澄「どうして?」
一花「生け花なんて花の生殺しだって、死んだパパも言ってたもん!」
◯静まり返る一同。
◯大砂物を見上げた哲夫がポツリと呟く。
哲夫「僕、華道のことはよく分からないけど…この松の木はすごく生き生きとして見えるよねぇ。」
花澄「ホントね。根もないのに不思議だわ。」
二花「めっちゃくちゃ綺麗だしオシャレ!」
三花「ねー、真行寺さんと写真撮ってニンスタに上げてもいい?」
◯ワイワイと賑わう家族たち。
◯一花も改めて大砂物を見上げる。
◯夕闇に早めの満月が浮かんでいる。それを背景に佇む重厚感溢れる木の枝は四方八方に自由に張り巡らされていて、まるで絵画のように芸術的。
◯一花が思わず呟く。
一花「綺麗。」
◯大砂物に見惚れる一花に気がついたカヲルが、微かに微笑む。
◯カヲルに群がる双子を押しのけて、花澄がカヲルに話しかける。
花澄「あの、真行寺さまっ。ウチはユリ農家なんで花ならたくさんありますよ!
農協に卸す数は決まってるけど、それ以外にも使える花材があるかもしれないし、もし良かったらハウスを見ていかれませんか?」
一花「ママ…⁉」
カヲル「いいんですか?」
哲夫「もちろんです、さあどうぞ!」
一花「ちょっ…。」
◯あっという間にカヲルを取り囲んだ家族がワイワイとビニールハウスに移動する。
◯家族がカヲルを受け入れるスピードの早さに一花が頭を抱える。
一花「ウチの家族もアタオカすぎ!」
♢
◯花の選花台や花を入れるプラスチックバケツがたくさんある作業小屋の中。
◯山のように積まれた細長い段ボール箱にはユリや他の高級花が収められていて、その全てをカヲルが買い取ることになった。
◯カヲルが提示した花の金額に喜び・舞い踊る両親。
一花「本当にコレ、全部買うつもりなの?」
◯呆れ顔の一花が作業小屋の横にカヲルを引っ張り出して釘を刺す。
◯カヲルがクスクス笑い、合掌のように一花に手を合わせる。
カヲル「いつもは花の顏だけを見て選別していたけど、こうして生産者さんたちを見て、花を見て、それから作品をイメージするということが、自分にとっては良い刺激になったと思う。
こういう機会を与えてくれたあなたに、感謝してるよ俺は。」
一花「…どうして?」
カヲル「え?」
一花「私、ヒドイことをしたじゃん。」
◯キョトンとした顏のカヲル。
◯一花が苦しげに心の内を吐き出す。
一花「今日初めて会ったあなたのことを勝手に花泥棒だと決めつけて殴ったし、生け花のことも侮辱した。
ムカつくでしょ、フツーは?」
カヲル「普通、か。」
◯カヲルが少し考えてから一花を見つめる。
カヲル「残念なことに、俺の周りには普通を教えてくれる人間が誰も居ないんだ。」
一花「へ?」
カヲル「今日、清々しいくらい本音を言う君を見て、俺はむしろ嬉しかった。」
一花「そうなんだ…。」
カヲル「女子に殴られるのも初体験で新鮮だった。」
一花「それは…ホントにゴメンて!」
◯苦笑いをする一花。
カヲル「君のことをもっと知りたい。」
◯月がカヲルを照らし、大輪の花のつぼみが開くように笑顔になるカヲル。
◯顏を赤くする一花。
一花(つまりドSってこと⁉)
♢
◯次の日の日農高校。登校する生徒たち。
◯一花のクラスで朝のHRが始まり、初老の担任の佐藤が登壇。
佐藤「えー。突然だが、転校生…いや、留学生を紹介する。」
◯佐藤がハンカチで汗を拭きながら廊下に居る留学生に声をかける。
佐藤「入って自己紹介をして。」
◯颯爽と教室に入って来たのはカヲル。
◯日農高校のブレザーに身を包んでいる。
カヲル「日本学術院から来ました真行寺カヲルです。国内地域留学制度を利用して、一年間だけ日農高校に通うことになりました。」
◯持っていたシャープペンシルをポトリと机に落とす一花。
一花「どっ、どゆこと?」
◯有名人のカヲルの出現に色めき立つ女子と胡散臭そうに騒ぐ男子たち。
男子「真行寺って華王子のCMの?」
女子「テレビ番組の企画じゃないよね⁉」
女子「カメラはどこッ⁉」
男子「なんで華道の御曹司が、こんな田舎の低ランク高校に来るんだよ⁉」
◯カヲルがCMのように指を唇に当てる。
◯静まり返る教室。
カヲル「家が華道の名門というだけで、俺はずっと決められたレールを走ってきた。
右に曲がれと言われれば右、その逆も然りだ。」
◯ゴクリと生唾を飲み込む生徒たち。
カヲル「長い人生の中で、一度くらいは脱線して空を飛んでみたいとは思わないか?」
◯一花がお手上げのジェスチャーをする。
一花(やっぱ変人のアタオカだわ!)
◯再びザワつく教室。
◯一番前の席の眼鏡女子がサッと挙手をする。
女子「華道以外の好きなことって何ですか?」
カヲル「轟一花!」
生徒一同「ヒューッ!」
女子「一花? 知り合いなの⁉」
◯静かだった教室が一気に爆発したように盛り上がり、全員の目が一花に集中する。
一花「あ…たし?」



