◯暗闇・不穏。
 ◯建物の中まで聞こえる激しく地面を叩く雨音。
 ◯稲光が瞬間煌めき、怯える一人の女子高生を浮かび上がらせる。

一花「ホラーか!」

 ◯視界がギリギリの薄暗い廊下から、深淵のような真っ暗な部屋の内部を覗き込んでいるブレザー姿の一花。
(金の校章がプリントされた紺のジャケット、青地にストライプのネクタイ、青地のチェックスカート)

一花「ココで間違いないんだよね?」

 ◯一花の手には上質な紙質の封筒に金の麻の葉文様が入った招待状。

一花「ちょ、暗すぎてなんにも見えん…! えーと、誰か居ませんかー?」

 ◯怖さを紛らわすために一人で大声を出して、扉が開け放たれた部屋の内部に呼びかける一花。
 ◯反応は無し。
 ◯一花は勇気を振り絞り、手探りで壁をペタペタと触る。

一花「電気はどこ…?」

 ◯電気のスイッチを探して部屋に足を踏みいれた瞬間、近くで雷が落ちる。
 ◯雷の破裂音に驚いて跳びあがり、耳を塞いでしゃがみ込む一花。

一花「やんッ!」
謎の声「雷、苦手なんだよね。」

 ◯何者かにドンと背中を押されて、一花が態勢を崩して転がる。

一花「わわっ! 何!?」

 ◯一花が部屋に入ると同時に、一花の背後で引き戸が閉まる。

一花「⁉」

 ◯一花が慌てて引き戸を開けようとするが、カギが閉まる金属音が響き、一花は青ざめる。

一花「ッ…閉じ込められた!?」

 ◯その瞬間、天井の照明がパッと点き、部屋の内部が明らかになる。

一花「コレって…!」

 ◯天井まで鏡張りの和室。畳の上には無数の帯が絨毯のように敷かれ、絢爛豪華な百合の花が生けられた黒い陶器の花器が部屋の中央を飾る。様々な配色のスポットライトが生け花の作品を照らしていて、まるで夢の中の光景のように浮かび上がる。
 ◯圧倒的で破壊力のある美しさに驚く半面、目が奪われて一花の思考が停止する。
 ◯ハッと一花の意識が戻る。

一花「カヲルの作品だ…!」

謎の声「嬉しいな。
 よくわかったね、一花。」

一花「カヲル!?」

 ◯部屋の中をグルリと見渡す一花。
 ◯声がした鏡張りの壁を見ると、声は上部に取り付けられているスピーカーから流れていて、その壁だけが透明になる。
 ◯壁の向こうで微笑んでいたのは真行寺カヲル。(黒のミディアムルーズなパーマヘア。眉目秀麗な細身の少年。着流しの上に黒の紗の十徳。)

カヲル「錦上添花って知ってる?」
 
一花「知らない。てゆーか、そこで何やってんの⁉」 

 ◯カヲルが透けて見える透明なアクリル壁に張り付く一花。
 ◯一花と対照的に冷静な態度のカヲルが、アクリル越しに一花の手に自分の手を合わせる。

カヲル「驚いた顔も可愛い。」

 ◯クスクスと笑うカヲルは貼り付いている一花の唇にキスをする素振りをする。
 ◯一花はアクリルの壁から飛び退き、非難の声を荒らげる。

一花「お、驚くに決まってんじゃん! 変ないたずらはやめて。」

カヲル「いたずらなんかじゃ、ないよ。」

 ◯カヲルの態度に顔がひきつる一花。

一花「出口はどこ?」

カヲル「教えない。」

 ◯カヲルは自らの両手を重ねて一花を見つめた。

カヲル「錦上添花はね、美しいものに美しいものを重ねるという意味なんだよ。」

一花「確かにこの作品は綺麗だよ。でも、なんであたしを…。」

カヲル「相乗効果でそれ以上の結果を生みだすため。」

一花「なんかこの匂い…クラクラする…。」

 ◯一花がむせかえるような花の香りに酔う。

一花(ヤバ…意識が遠のいて…。)

 ◯一花は気絶し、倒れてしまう。
 ◯アクリルの扉が開き、カヲルが部屋に入ってくる。
 ◯一花の横にフワリと跪くカヲル。

カヲル「俺が君をココに閉じ込めた理由は、ね。」

 ◯カヲルが妖しく、愛おしく一花を見つめみながら床から半身を抱き上げる。

カヲル「この空間に愛する一花を生けたかったから、だよ。」