心地よかった。
篠原くんと過ごす五分間は、しゃべっているのに落ち着く。
篠原くんと“月階段同盟”を結んでから一週間。
彼は来なかった。
「ごめん、バイトバレて怒られた」
十五分待って、ようやく来た彼は額に汗を浮かべていて。
「全然いいよ…って、篠原くんバイトやってたの、?」
中学生でバイト…認められることではない。
「近所の居酒屋のホール。
先生がたまたまその店入っちゃったぽくて。
事情説明すれば渋々って感じよ。これで竹島先生からはバイト公認」
細くて綺麗な指で、絵文字のようなピース。
「今日時間大丈夫?待たせちゃってほんとごめん」
篠原くんは意外にフレンドリーで、そのことを以前伝えれば「俺ってそんな冷たい一匹狼だった!?」と慌てられた。
「っ、やば」
ダッシュで帰れば大丈夫…かな、?
「ごめん篠原くん、私帰る!」
家に帰らなきゃいけない。
足取りは重くても、走り出した私の体を止めるわけにはいかない。
慌てて下駄箱で上履きからクツへ履き替える。
「帰らなきゃ、ダメかな…」
誰もいない下駄箱には悲しいくらい私の声が響く。
「帰りたく、ないなぁ…」
ずるずるとその場でしゃがみ込めば、冷たい床が気持ちよかった。
「もうちょっと、だけ…」
そのまま私は、目を閉じて──────



