「鷺原市立第四中学校」───私の通っている中学校だ。
六年前、新たに創設された中学校で、校舎は明るく綺麗。
教室・職員棟と特別授業用校舎で分かれており、市内一大きな学校だった。
教室・職員棟には「春夏秋冬階段」があり、特別授業用校舎は「花鳥風月階段」がある。
校舎内の四つの階段の名称で、私は最も人通りが少ない「月階段」を気に入っていた。
忘れ物をしたふりをして教室に戻り、そこからこっそりと特別授業用校舎に忍び込む。
大規模な部活なら、部室もその特別授業用校舎にあるため、「吹奏楽部」やら「美術部」やら、出会った先生に問われたら返せば問題ない。
帰宅時間、授業終了時間を完璧に把握している母にバレないように、毎日五分くらいそこで息を吐く。
ようやく、新鮮な空気が吸える気がして。
「さようなら〜」
足早に通り去っていく担任。俯いている私が誰かすらわかっていないだろうけど、きっと教師は校舎内で会った生徒全員に挨拶をしているのだろう。
「…はやく、月階段、…」
行きたい。
生きたくない。
「え、」
月階段の二階と三階の踊り場に、見たことのある整った顔。
本来なら校舎では開いてはいけないスマホで音楽を聴いている彼。
…先客が、いた。



