恋愛とは、科学である。
少なくとも、昨日の俺──田中優太(二十四歳・大学院生・恋愛経験値ゼロ)はそう信じていた。
「……なのに、なぜ俺は今日、こんなにも大量の恋愛ハウツー本を抱えて帰宅しているんだろうな」
自室の床に積み上げられた十冊の恋愛指南書。背表紙には『必ず成功するデートプラン』『恋愛心理学完全攻略』『モテる男はなぜかロジカル』など、胡散臭さ満点のタイトルが並んでいた。
完全に怪しい。だが、背に腹は代えられない。
「ここに、俺の未来がかかっている……!」
俺はメガネを直しつつ、デスクにノートパソコンを広げた。やるべきことは明確だ。
──マニュアルの内容を徹底的に解析、データベース化する。
テキストマイニング、頻出単語の抽出、カテゴリ分け。
「モテる男の特徴」を因子分析し、クラスタリングすれば、最適行動モデルが導き出せるはずだ。
「ふふふ……これで俺は恋愛マスターになる。後輩の歩美、君を振り向かせてみせる!」
ニヤける俺の背後で、突然インターホンが鳴った。
「よう、ユータ! お前、また徹夜してんのか?」
やって来たのは、親友の鈴木大輔(二十四歳・イケメン風・恋愛経験豊富らしい)。
手にはコンビニの袋。中からはポテチとエナドリが覗いている。完全にダメ人間セットだ。
「で、なにやってんだよ? うわっ、なんだこの本の山!」
「恋愛工学の基礎資料だ」
「いや違ぇよ。これただの恋愛指南本じゃん!」
大輔は半笑いで本を手に取る。
「『絶対に落ちる! 魔法のセリフ100選』……ははは、マジで買ったのかよ!」
「バカにするな。これは実証実験のためのデータだ」
「いやいや……恋愛に実証実験とかいらねーから!」
大輔は頭を抱えて笑う。俺は真顔で言い返した。
「大輔、統計を侮るな。ここに書かれているセリフを使えば、後輩の歩美の心も揺れるはずなんだ」
「マジか……ユータ、お前ほんとに好きなんだな」
急に真剣な顔をする大輔。俺は一瞬言葉に詰まる。
「……好き、というか……その……」
「おーおー、顔赤いぞ? あの鉄壁のユータが、照れてる!」
「う、うるさい!」
耳まで熱くなりながらも、俺は強引に話を戻した。
「とにかくだ。俺は"完璧な告白プログラム"を組み立てる。大輔、お前の経験もデータに組み込みたい」
「は? 俺の恋愛データ?」
「成功率、失敗原因、アプローチ方法……全部だ」
「なんか俺、実験動物みたいじゃね?」
不満げに呟きながらも、大輔は協力してくれるあたり、本当にいいやつだ。
数時間後。
俺のPC画面には、「モテ男因子データベース・Ver1.0」が完成していた。
──モテる男の共通点
1. 清潔感(髪型・服装)
2. ユーモア(会話で笑わせる)
3. 主導権(リードできるか)
4. 共感力(話を聞く姿勢)
5. 適度な距離感(しつこくない)
6. 経済力(デート費用を負担)
「ふむ、予想通りだ。恋愛とは、数式に還元可能……!」
俺が興奮気味に頷いていると、大輔が鼻で笑った。
「まあ、だいたい合ってんだけどな。……けどさ、ユータ。お前、その理論をどうやって実践すんの?」
「……え?」
「清潔感はいいとして、ユーモアとか共感力って、お前に一番足りねーとこじゃん」
図星すぎて、言葉が出なかった。
確かに俺は、人を笑わせるのが下手だし、相手の話を聞くより分析したくなる性質だ。
「……つまり?」
「つまり、机上の空論ってやつ」
「ぐっ……!」
俺の心にクリティカルヒット。
システムエラー音が頭に鳴り響く。
《ERROR:実行環境が不足しています》
しかし、俺は諦めなかった。
翌朝、俺は『魔法のセリフ100選』を片手に、鏡の前で練習していた。
「おはよう、歩美ちゃん。今日もかわいいね……」
鏡の中の自分が、ものすごく不自然な笑顔を浮かべている。
「……これは、キモい」
素直に認めざるを得なかった。だが練習を続ける。
「昨日のレポート、大変だったでしょう? コーヒーでも飲みません?」
マニュアルによれば、「相手を気遣う言葉+誘い」の組み合わせが効果的らしい。
「そうそう、石倉さんの髪型、すごく似合ってますね」
褒めるポイントは「髪型」「服装」「仕草」の順で安全とのこと。
「……よし、完璧だ」
鏡に向かってサムズアップ。準備は整った。
大学に到着した俺は、まず歩美の行動パターンを確認すべく図書館へ向かった。
昨日の観察データでは、「11:46 図書館へ移動」とある。つまり彼女は図書館を利用する習慣があるのだ。
「情報収集は戦略の基本……」
俺は図書館の入り口で張り込みを開始した。しかし30分経っても歩美は現れない。
「おかしいな……データに誤りが?」
そんな時、背後から声をかけられた。
「あの、何かお探しですか?」
振り返ると、そこには眼鏡をかけた女性が立っていた。図書館スタッフのバッジを付けている。
「あ、いえ……その……」
「もしかして、迷子ですか?」
彼女は優しく微笑んだ。なぜか俺の心が少し軽くなる。
「田中優太と申します。大学院生で……」
「山田静香です。こちらでアルバイトをしています。何かお手伝いできることがあれば」
山田静香。この名前を俺は記憶に刻んだ。なぜなら彼女の話し方には、嫌味や計算がまったく感じられなかったからだ。
「実は……心理学の文献を探していまして」
「心理学でしたら、3階の人文科学エリアにありますよ。ご案内しましょうか?」
「あ、ありがとうございます」
俺は静香に連れられて図書館内を歩いた。彼女は道すがら、図書館の利用方法や便利なサービスについて説明してくれる。
「田中さんは情報工学専攻でしたよね。でも心理学にも興味があるんですね」
「ええ、まあ……人間の行動パターンに興味があって」
「素敵ですね。学際的な視点って大切だと思います」
なぜだろう。歩美と話している時のような緊張感が、静香といると感じられない。まるで昔からの知り合いのような安心感がある。
「あ、ここです。心理学関連の書籍はこちらに」
「ありがとうございます。あの……」
「はい?」
「もしよろしければ、また何かあったら相談させてください」
「もちろんです。いつでもどうぞ」
静香は自然な笑顔で答えた。
午後、ついに歩美が研究室に現れた。俺は心の中で檄を飛ばす。
「よし、『魔法のセリフ』の実践だ!」
歩美がコーヒーメーカーに向かう姿を確認。俺も立ち上がり、カジュアルを装って近づく。
「あ、石倉さん。おはよう……じゃなくて、こんにちは」
初っ端からかんだ。
「こんにちは、田中先輩」
歩美は振り返って微笑む。俺の心拍数が急上昇。
《Warning:心拍数140。冷静さを保ってください》
「昨日のレポート、大変だったでしょう?」
マニュアル通りのセリフが口から出る。
「え? レポート?」
「あ、いえ……その……何か大変そうだったので……」
歩美は首をかしげた。そういえば彼女がレポートで苦労している様子など見たことがない。
「特に大変ではありませんでしたが……田中先輩こそ、修論の進捗はいかがですか?」
「しゅ、修論……」
逆に質問された。マニュアルにこのパターンは載っていない。
「順調……です……」
「そうなんですね。自然言語処理でしたっけ? 面白そうです」
歩美は本当に興味深そうに話を聞いてくれる。しかし俺は緊張で頭が真っ白。
「あ、あの! 石倉さんの髪型、すごく似合ってますね!」
突然マニュアル通りの褒め言葉を投下。歩美は驚いて髪を触る。
「え? あ、ありがとうございます……」
明らかに困惑している。俺は自分の不自然さに気づいたが、もう止まらない。
「コーヒーでも飲みません?」
「え、今飲もうとしていたんですが……」
「あ、そうですね! じゃあ一緒に!」
テンション高すぎる。完全におかしい。
歩美は苦笑いを浮かべながら、「はい……」と小さく答えた。
その夜、俺は大輔に報告していた。
「……で、結局気まずい感じで終わったと」
「ああ……」
「マニュアル通りにやったのに、なんで上手くいかねーんだろうな」
大輔も不思議そうに首をひねる。
「でもさ、ユータ。お前、図書館の子とは普通に話せてたじゃん」
「山田さんのことか? ああ、彼女は話しやすかった」
「それだよ、それ!」
「え?」
「お前、石倉さんの前だと変にかっこつけようとして、逆に不自然になってんだよ」
大輔の指摘に、俺は愕然とした。
「つまり……俺は『好きな人の前では素でいられない』というバグを抱えているということか?」
「バグって……まあ、そんなとこかな」
《Error:対象への好意が処理性能を低下させています》
俺の脳内システムが、悲しい警告を出していた。
落ち込む俺に、大輔は優しく言った。
「でもまあ、失敗してもいいじゃん。最初から完璧なんて無理だし」
「完璧を……求めるな、だと?」
「そうそう。恋愛はゲームじゃないんだからさ」
その言葉に、俺は固まった。
──恋愛は、攻略可能なゲームだ。俺はそう信じていた。だが……。
いや、待て。
これはまだ仮説だ。本当にゲームではないと証明されるまでは、諦めるわけにはいかない!
「……大輔。俺はやるぞ」
「お、おう?」
「この理論を実証する。アルゴリズムを改良し、再び歩美にアプローチするんだ!」
「……マジでやんのかよ」
大輔は頭を抱えた。だが俺はすでに決意を固めていた。
今日の失敗を分析し、アルゴリズムをバージョンアップする。
一人になった俺は、今日の失敗を詳細に分析し始めた。
【恋愛アルゴリズム ver.1.0 エラーレポート】
エラー1:不適切なタイミング
- 相手が行っていない「レポート」について言及
- 解決策:事前の状況確認を徹底
エラー2:過剰な褒めパフォーマンス
- 唐突すぎる外見への言及
- 解決策:自然な文脈での褒め言葉
エラー3:緊張による処理能力低下
- 好意のある対象前でのパフォーマンス劣化
- 解決策:???
「3番目のエラーが一番深刻だな……」
好きな人の前だと緊張してしまう。これは論理的に解決可能な問題なのだろうか?
そんな時、今日の図書館での山田静香との会話を思い出した。彼女とは自然に話せた。なぜだろう?
「彼女には恋愛感情を抱いていないから……?」
だとすると、恋愛感情こそが俺のシステムにバグを起こす原因ということになる。
「つまり恋愛感情を制御できれば……」
いや、それでは本末転倒だ。
「うーん……」
俺は頭を抱えた。恋愛というシステムは、想像以上に複雑だった。
しかし諦めるわけにはいかない。完璧なアルゴリズムで、後輩の歩美を振り向かせる。
──第一次接触作戦は失敗。だが、これはまだ序章にすぎない。
少なくとも、昨日の俺──田中優太(二十四歳・大学院生・恋愛経験値ゼロ)はそう信じていた。
「……なのに、なぜ俺は今日、こんなにも大量の恋愛ハウツー本を抱えて帰宅しているんだろうな」
自室の床に積み上げられた十冊の恋愛指南書。背表紙には『必ず成功するデートプラン』『恋愛心理学完全攻略』『モテる男はなぜかロジカル』など、胡散臭さ満点のタイトルが並んでいた。
完全に怪しい。だが、背に腹は代えられない。
「ここに、俺の未来がかかっている……!」
俺はメガネを直しつつ、デスクにノートパソコンを広げた。やるべきことは明確だ。
──マニュアルの内容を徹底的に解析、データベース化する。
テキストマイニング、頻出単語の抽出、カテゴリ分け。
「モテる男の特徴」を因子分析し、クラスタリングすれば、最適行動モデルが導き出せるはずだ。
「ふふふ……これで俺は恋愛マスターになる。後輩の歩美、君を振り向かせてみせる!」
ニヤける俺の背後で、突然インターホンが鳴った。
「よう、ユータ! お前、また徹夜してんのか?」
やって来たのは、親友の鈴木大輔(二十四歳・イケメン風・恋愛経験豊富らしい)。
手にはコンビニの袋。中からはポテチとエナドリが覗いている。完全にダメ人間セットだ。
「で、なにやってんだよ? うわっ、なんだこの本の山!」
「恋愛工学の基礎資料だ」
「いや違ぇよ。これただの恋愛指南本じゃん!」
大輔は半笑いで本を手に取る。
「『絶対に落ちる! 魔法のセリフ100選』……ははは、マジで買ったのかよ!」
「バカにするな。これは実証実験のためのデータだ」
「いやいや……恋愛に実証実験とかいらねーから!」
大輔は頭を抱えて笑う。俺は真顔で言い返した。
「大輔、統計を侮るな。ここに書かれているセリフを使えば、後輩の歩美の心も揺れるはずなんだ」
「マジか……ユータ、お前ほんとに好きなんだな」
急に真剣な顔をする大輔。俺は一瞬言葉に詰まる。
「……好き、というか……その……」
「おーおー、顔赤いぞ? あの鉄壁のユータが、照れてる!」
「う、うるさい!」
耳まで熱くなりながらも、俺は強引に話を戻した。
「とにかくだ。俺は"完璧な告白プログラム"を組み立てる。大輔、お前の経験もデータに組み込みたい」
「は? 俺の恋愛データ?」
「成功率、失敗原因、アプローチ方法……全部だ」
「なんか俺、実験動物みたいじゃね?」
不満げに呟きながらも、大輔は協力してくれるあたり、本当にいいやつだ。
数時間後。
俺のPC画面には、「モテ男因子データベース・Ver1.0」が完成していた。
──モテる男の共通点
1. 清潔感(髪型・服装)
2. ユーモア(会話で笑わせる)
3. 主導権(リードできるか)
4. 共感力(話を聞く姿勢)
5. 適度な距離感(しつこくない)
6. 経済力(デート費用を負担)
「ふむ、予想通りだ。恋愛とは、数式に還元可能……!」
俺が興奮気味に頷いていると、大輔が鼻で笑った。
「まあ、だいたい合ってんだけどな。……けどさ、ユータ。お前、その理論をどうやって実践すんの?」
「……え?」
「清潔感はいいとして、ユーモアとか共感力って、お前に一番足りねーとこじゃん」
図星すぎて、言葉が出なかった。
確かに俺は、人を笑わせるのが下手だし、相手の話を聞くより分析したくなる性質だ。
「……つまり?」
「つまり、机上の空論ってやつ」
「ぐっ……!」
俺の心にクリティカルヒット。
システムエラー音が頭に鳴り響く。
《ERROR:実行環境が不足しています》
しかし、俺は諦めなかった。
翌朝、俺は『魔法のセリフ100選』を片手に、鏡の前で練習していた。
「おはよう、歩美ちゃん。今日もかわいいね……」
鏡の中の自分が、ものすごく不自然な笑顔を浮かべている。
「……これは、キモい」
素直に認めざるを得なかった。だが練習を続ける。
「昨日のレポート、大変だったでしょう? コーヒーでも飲みません?」
マニュアルによれば、「相手を気遣う言葉+誘い」の組み合わせが効果的らしい。
「そうそう、石倉さんの髪型、すごく似合ってますね」
褒めるポイントは「髪型」「服装」「仕草」の順で安全とのこと。
「……よし、完璧だ」
鏡に向かってサムズアップ。準備は整った。
大学に到着した俺は、まず歩美の行動パターンを確認すべく図書館へ向かった。
昨日の観察データでは、「11:46 図書館へ移動」とある。つまり彼女は図書館を利用する習慣があるのだ。
「情報収集は戦略の基本……」
俺は図書館の入り口で張り込みを開始した。しかし30分経っても歩美は現れない。
「おかしいな……データに誤りが?」
そんな時、背後から声をかけられた。
「あの、何かお探しですか?」
振り返ると、そこには眼鏡をかけた女性が立っていた。図書館スタッフのバッジを付けている。
「あ、いえ……その……」
「もしかして、迷子ですか?」
彼女は優しく微笑んだ。なぜか俺の心が少し軽くなる。
「田中優太と申します。大学院生で……」
「山田静香です。こちらでアルバイトをしています。何かお手伝いできることがあれば」
山田静香。この名前を俺は記憶に刻んだ。なぜなら彼女の話し方には、嫌味や計算がまったく感じられなかったからだ。
「実は……心理学の文献を探していまして」
「心理学でしたら、3階の人文科学エリアにありますよ。ご案内しましょうか?」
「あ、ありがとうございます」
俺は静香に連れられて図書館内を歩いた。彼女は道すがら、図書館の利用方法や便利なサービスについて説明してくれる。
「田中さんは情報工学専攻でしたよね。でも心理学にも興味があるんですね」
「ええ、まあ……人間の行動パターンに興味があって」
「素敵ですね。学際的な視点って大切だと思います」
なぜだろう。歩美と話している時のような緊張感が、静香といると感じられない。まるで昔からの知り合いのような安心感がある。
「あ、ここです。心理学関連の書籍はこちらに」
「ありがとうございます。あの……」
「はい?」
「もしよろしければ、また何かあったら相談させてください」
「もちろんです。いつでもどうぞ」
静香は自然な笑顔で答えた。
午後、ついに歩美が研究室に現れた。俺は心の中で檄を飛ばす。
「よし、『魔法のセリフ』の実践だ!」
歩美がコーヒーメーカーに向かう姿を確認。俺も立ち上がり、カジュアルを装って近づく。
「あ、石倉さん。おはよう……じゃなくて、こんにちは」
初っ端からかんだ。
「こんにちは、田中先輩」
歩美は振り返って微笑む。俺の心拍数が急上昇。
《Warning:心拍数140。冷静さを保ってください》
「昨日のレポート、大変だったでしょう?」
マニュアル通りのセリフが口から出る。
「え? レポート?」
「あ、いえ……その……何か大変そうだったので……」
歩美は首をかしげた。そういえば彼女がレポートで苦労している様子など見たことがない。
「特に大変ではありませんでしたが……田中先輩こそ、修論の進捗はいかがですか?」
「しゅ、修論……」
逆に質問された。マニュアルにこのパターンは載っていない。
「順調……です……」
「そうなんですね。自然言語処理でしたっけ? 面白そうです」
歩美は本当に興味深そうに話を聞いてくれる。しかし俺は緊張で頭が真っ白。
「あ、あの! 石倉さんの髪型、すごく似合ってますね!」
突然マニュアル通りの褒め言葉を投下。歩美は驚いて髪を触る。
「え? あ、ありがとうございます……」
明らかに困惑している。俺は自分の不自然さに気づいたが、もう止まらない。
「コーヒーでも飲みません?」
「え、今飲もうとしていたんですが……」
「あ、そうですね! じゃあ一緒に!」
テンション高すぎる。完全におかしい。
歩美は苦笑いを浮かべながら、「はい……」と小さく答えた。
その夜、俺は大輔に報告していた。
「……で、結局気まずい感じで終わったと」
「ああ……」
「マニュアル通りにやったのに、なんで上手くいかねーんだろうな」
大輔も不思議そうに首をひねる。
「でもさ、ユータ。お前、図書館の子とは普通に話せてたじゃん」
「山田さんのことか? ああ、彼女は話しやすかった」
「それだよ、それ!」
「え?」
「お前、石倉さんの前だと変にかっこつけようとして、逆に不自然になってんだよ」
大輔の指摘に、俺は愕然とした。
「つまり……俺は『好きな人の前では素でいられない』というバグを抱えているということか?」
「バグって……まあ、そんなとこかな」
《Error:対象への好意が処理性能を低下させています》
俺の脳内システムが、悲しい警告を出していた。
落ち込む俺に、大輔は優しく言った。
「でもまあ、失敗してもいいじゃん。最初から完璧なんて無理だし」
「完璧を……求めるな、だと?」
「そうそう。恋愛はゲームじゃないんだからさ」
その言葉に、俺は固まった。
──恋愛は、攻略可能なゲームだ。俺はそう信じていた。だが……。
いや、待て。
これはまだ仮説だ。本当にゲームではないと証明されるまでは、諦めるわけにはいかない!
「……大輔。俺はやるぞ」
「お、おう?」
「この理論を実証する。アルゴリズムを改良し、再び歩美にアプローチするんだ!」
「……マジでやんのかよ」
大輔は頭を抱えた。だが俺はすでに決意を固めていた。
今日の失敗を分析し、アルゴリズムをバージョンアップする。
一人になった俺は、今日の失敗を詳細に分析し始めた。
【恋愛アルゴリズム ver.1.0 エラーレポート】
エラー1:不適切なタイミング
- 相手が行っていない「レポート」について言及
- 解決策:事前の状況確認を徹底
エラー2:過剰な褒めパフォーマンス
- 唐突すぎる外見への言及
- 解決策:自然な文脈での褒め言葉
エラー3:緊張による処理能力低下
- 好意のある対象前でのパフォーマンス劣化
- 解決策:???
「3番目のエラーが一番深刻だな……」
好きな人の前だと緊張してしまう。これは論理的に解決可能な問題なのだろうか?
そんな時、今日の図書館での山田静香との会話を思い出した。彼女とは自然に話せた。なぜだろう?
「彼女には恋愛感情を抱いていないから……?」
だとすると、恋愛感情こそが俺のシステムにバグを起こす原因ということになる。
「つまり恋愛感情を制御できれば……」
いや、それでは本末転倒だ。
「うーん……」
俺は頭を抱えた。恋愛というシステムは、想像以上に複雑だった。
しかし諦めるわけにはいかない。完璧なアルゴリズムで、後輩の歩美を振り向かせる。
──第一次接触作戦は失敗。だが、これはまだ序章にすぎない。



