告白から一週間後。
俺──田中優太は、人生で初めて「恋人」という存在を持った。
静香と付き合い始めてから、俺の日常は大きく変化していた。
「おはようございます、田中さん」
「おはよう、静香」
図書館で会う時も、以前とは違う温かさがある。お互いの気持ちが分かっているからだろう。
「今日は早いお時間ですね」
「君に会いたくて」
素直にそう言えるようになった自分に、俺自身が驚いている。
「私も嬉しいです」
静香の微笑みを見ていると、データ分析なんて必要ないと心から思える。
しかし、付き合い始めてから新たな問題が浮上していた。
「デートの計画を立てなければ……」
俺は研究室で、またもやExcelファイルを開いていた。
【デートプラン最適化シート】
時間配分:
- 待ち合わせ:10:00
- カフェ:10:30-12:00
- 昼食:12:00-13:30
- 映画:14:00-16:00
- 買い物:16:30-18:00
- 夕食:18:30-20:00
予算計算:
- カフェ代:1,200円
- 昼食代:3,000円
- 映画代:3,800円
- 夕食代:5,000円
- 合計:13,000円
「完璧だ……」
「おい優太、また変な計算してんじゃねーだろうな?」
大輔が俺の画面を覗き込んだ。
「変じゃない。これは最適なデートプランだ」
「最適って……お前、恋人とのデートまでスケジュール管理すんのかよ」
「当然だ。静香に楽しんでもらいたいから、事前準備は重要だろう」
「いやいや、そういう問題じゃ……」
大輔は頭を抱えた。
「お前さ、恋人ができても結局同じことやってんじゃん」
「同じこと?」
「データで管理しようとしてる。山田さんと付き合えたのは、お前が自然体になったからだろ?」
大輔の指摘に、俺は少し戸惑った。
「でも、デートで失敗したくないし……」
「失敗したっていいんだよ。二人で笑えばそれも思い出になるって」
土曜日、俺は計画通りにデートを実行した。
「田中さん、今日はありがとうございます」
「いや、こちらこそ」
カフェでの時間も、スケジュール通り1時間30分。
「そろそろ昼食にしましょうか」
「え? もう?」
「計画では12時からになってるんだ」
静香は少し困ったような表情を見せたが、従ってくれた。
昼食後も、予定通り映画館へ。
「この映画、楽しみですね」
「ああ。レビューサイトで評価が高かったから選んだんだ」
「評価サイト……」
映画は確かに面白かったが、俺は上映時間が予定より15分長いことが気になって仕方なかった。
「次の予定に遅れてしまう……」
買い物中、静香が口を開いた。
「田中さん、今日はとても楽しいですが……」
「楽しんでもらえて良かった」
「でも、少し疲れちゃいました」
「疲れた?」
「はい。なんだか時間に追われてるような気がして」
静香の言葉に、俺は愕然とした。
「俺は君に楽しんでもらおうと思って……」
「お気持ちは嬉しいです。でも……」
静香は優しく微笑んだ。
「もう少し自然に、二人のペースで過ごしませんか?」
その夜、俺は反省していた。
「また同じ失敗をしてしまった……」
静香との関係でも、つい「最適化」を考えてしまう。
「でも、どうすれば自然に……」
そんな時、スマートフォンに静香からメッセージが届いた。
『今日はお疲れさまでした。とても楽しかったです。田中さんの気遣いが嬉しかったです。でも次は、もっとゆっくり過ごしましょうね』
彼女の優しさが身に染みた。
月曜日、高橋先輩に相談した。
「田中くん、恋人ができても悩みは尽きませんね」
「はい……つい完璧を目指してしまって」
「それは田中くんの長所でもありますが、恋愛では時として短所にもなりますね」
「短所……」
「相手を思うあまり、相手の自然な反応を見落としてしまうことがあります」
先輩の言葉は的確だった。
「恋人関係で大切なのは、完璧なプランより『一緒にいる時間』そのものです」
「一緒にいる時間……」
「そうです。何をするかではなく、誰と過ごすかが重要なんです」
昼休み、歩美にも相談してみた。
「田中先輩、恋人ができて嬉しそうですね」
「ありがとう。でも、うまくいかないことも多くて」
「どんなことですか?」
俺は土曜日のデートのことを話した。
「ああ……先輩らしいですね」
「らしい?」
「はい。一生懸命すぎるんです」
歩美は苦笑いした。
「女性としては、完璧なデートより、相手が自然体でいてくれる方が嬉しいんです」
「自然体……」
「山田さんは、田中先輩の『頑張ってる姿』も含めて好きになってくれたんだと思います」
歩美の分析は、いつも核心をついている。
「だから、もう少し肩の力を抜いて、二人の時間を楽しんでください」
その日の夕方、図書館で静香と話した。
「静香、土曜日のこと……」
「はい?」
「俺、また完璧を目指しすぎてたかもしれない」
「田中さん……」
「君に楽しんでもらいたくて、でもそれがプレッシャーになってしまった」
俺は素直に謝った。
「謝らないでください」
「え?」
「田中さんの一生懸懸命さが、私は好きなんです」
静香は優しく微笑んだ。
「でも、もう少しリラックスしませんか? 私、田中さんと一緒にいるだけで幸せですから」
翌週の土曜日、俺は計画を立てなかった。
「今日は何をしましょうか?」
静香に聞いてみた。
「そうですね……散歩でもしませんか?」
「散歩?」
「はい。特に目的地を決めずに、ゆっくり歩きましょう」
俺たちは大学の近くの公園を歩いた。
「あ、あそこに綺麗な花が咲いてます」
静香が指差す方向に、桜の木があった。
「本当だ。綺麗だな」
「写真を撮りませんか?」
「いいね」
二人でスマートフォンで写真を撮った。計画にはなかった、でもとても素敵な時間だった。
公園のベンチに座って、他愛もない話をした。
「田中さんは、どんな研究をしてるんですか?」
「自然言語処理だよ。AIに人間の言葉を理解させる研究」
「すごいですね。私には全然分からない世界です」
「君の文学の知識も、俺には新鮮だ」
「本当ですか?」
「ああ。今度、君のおすすめの本を教えて」
「喜んで!」
こんな風に、お互いの世界を共有できることが嬉しかった。
「あ、雨が降ってきました」
急に雨が降り出した。
「傘を持ってきてない……」
「大丈夫、一緒に雨宿りしましょう」
俺たちは近くの屋根の下に避難した。文化祭の日を思い出す。
「田中さん、雨の日って多いですね、私たち」
「そうだな。でも、悪くない」
「はい。むしろ特別な感じがします」
計画にない出来事だったが、二人で笑えた。
「これも思い出になるね」
「はい。完璧な計画より、こういう予想外の出来事の方が記憶に残りそうです」
その夜、俺は新しいファイルを作成した。
【恋人関係アルゴリズム ver.1.0】
基本方針:
1. 完璧な計画より、一緒にいる時間を大切にする
2. 相手のペースに合わせる
3. 予想外の出来事も楽しむ
4. お互いの世界を共有する
5. 自然体でいることを心がける
重要な発見:
- 静香は俺の一生懸命さを理解してくれる
- 計画にない出来事も二人なら楽しめる
- 完璧じゃなくても愛情は伝わる
「そうか……恋人関係にも新しいアルゴリズムが必要だったんだ」
翌週、研究室で大輔に報告した。
「今度は自然なデートができたよ」
「おお、やっとか! どうだった?」
「雨に降られたけど、楽しかった」
「雨に降られて楽しいって……お前も変わったな」
歩美からも祝福された。
「田中先輩、とても良い表情をしてますね」
「ありがとう。君のアドバイスも参考になった」
「恋人関係も研究のように、日々学んでいくものですね」
高橋先輩も満足そうだった。
「田中くん、良い方向に向かってますね」
「はい。まだまだ学ぶことは多いですが」
「それが恋愛の楽しさでもありますよ」
俺──田中優太は、人生で初めて「恋人」という存在を持った。
静香と付き合い始めてから、俺の日常は大きく変化していた。
「おはようございます、田中さん」
「おはよう、静香」
図書館で会う時も、以前とは違う温かさがある。お互いの気持ちが分かっているからだろう。
「今日は早いお時間ですね」
「君に会いたくて」
素直にそう言えるようになった自分に、俺自身が驚いている。
「私も嬉しいです」
静香の微笑みを見ていると、データ分析なんて必要ないと心から思える。
しかし、付き合い始めてから新たな問題が浮上していた。
「デートの計画を立てなければ……」
俺は研究室で、またもやExcelファイルを開いていた。
【デートプラン最適化シート】
時間配分:
- 待ち合わせ:10:00
- カフェ:10:30-12:00
- 昼食:12:00-13:30
- 映画:14:00-16:00
- 買い物:16:30-18:00
- 夕食:18:30-20:00
予算計算:
- カフェ代:1,200円
- 昼食代:3,000円
- 映画代:3,800円
- 夕食代:5,000円
- 合計:13,000円
「完璧だ……」
「おい優太、また変な計算してんじゃねーだろうな?」
大輔が俺の画面を覗き込んだ。
「変じゃない。これは最適なデートプランだ」
「最適って……お前、恋人とのデートまでスケジュール管理すんのかよ」
「当然だ。静香に楽しんでもらいたいから、事前準備は重要だろう」
「いやいや、そういう問題じゃ……」
大輔は頭を抱えた。
「お前さ、恋人ができても結局同じことやってんじゃん」
「同じこと?」
「データで管理しようとしてる。山田さんと付き合えたのは、お前が自然体になったからだろ?」
大輔の指摘に、俺は少し戸惑った。
「でも、デートで失敗したくないし……」
「失敗したっていいんだよ。二人で笑えばそれも思い出になるって」
土曜日、俺は計画通りにデートを実行した。
「田中さん、今日はありがとうございます」
「いや、こちらこそ」
カフェでの時間も、スケジュール通り1時間30分。
「そろそろ昼食にしましょうか」
「え? もう?」
「計画では12時からになってるんだ」
静香は少し困ったような表情を見せたが、従ってくれた。
昼食後も、予定通り映画館へ。
「この映画、楽しみですね」
「ああ。レビューサイトで評価が高かったから選んだんだ」
「評価サイト……」
映画は確かに面白かったが、俺は上映時間が予定より15分長いことが気になって仕方なかった。
「次の予定に遅れてしまう……」
買い物中、静香が口を開いた。
「田中さん、今日はとても楽しいですが……」
「楽しんでもらえて良かった」
「でも、少し疲れちゃいました」
「疲れた?」
「はい。なんだか時間に追われてるような気がして」
静香の言葉に、俺は愕然とした。
「俺は君に楽しんでもらおうと思って……」
「お気持ちは嬉しいです。でも……」
静香は優しく微笑んだ。
「もう少し自然に、二人のペースで過ごしませんか?」
その夜、俺は反省していた。
「また同じ失敗をしてしまった……」
静香との関係でも、つい「最適化」を考えてしまう。
「でも、どうすれば自然に……」
そんな時、スマートフォンに静香からメッセージが届いた。
『今日はお疲れさまでした。とても楽しかったです。田中さんの気遣いが嬉しかったです。でも次は、もっとゆっくり過ごしましょうね』
彼女の優しさが身に染みた。
月曜日、高橋先輩に相談した。
「田中くん、恋人ができても悩みは尽きませんね」
「はい……つい完璧を目指してしまって」
「それは田中くんの長所でもありますが、恋愛では時として短所にもなりますね」
「短所……」
「相手を思うあまり、相手の自然な反応を見落としてしまうことがあります」
先輩の言葉は的確だった。
「恋人関係で大切なのは、完璧なプランより『一緒にいる時間』そのものです」
「一緒にいる時間……」
「そうです。何をするかではなく、誰と過ごすかが重要なんです」
昼休み、歩美にも相談してみた。
「田中先輩、恋人ができて嬉しそうですね」
「ありがとう。でも、うまくいかないことも多くて」
「どんなことですか?」
俺は土曜日のデートのことを話した。
「ああ……先輩らしいですね」
「らしい?」
「はい。一生懸命すぎるんです」
歩美は苦笑いした。
「女性としては、完璧なデートより、相手が自然体でいてくれる方が嬉しいんです」
「自然体……」
「山田さんは、田中先輩の『頑張ってる姿』も含めて好きになってくれたんだと思います」
歩美の分析は、いつも核心をついている。
「だから、もう少し肩の力を抜いて、二人の時間を楽しんでください」
その日の夕方、図書館で静香と話した。
「静香、土曜日のこと……」
「はい?」
「俺、また完璧を目指しすぎてたかもしれない」
「田中さん……」
「君に楽しんでもらいたくて、でもそれがプレッシャーになってしまった」
俺は素直に謝った。
「謝らないでください」
「え?」
「田中さんの一生懸懸命さが、私は好きなんです」
静香は優しく微笑んだ。
「でも、もう少しリラックスしませんか? 私、田中さんと一緒にいるだけで幸せですから」
翌週の土曜日、俺は計画を立てなかった。
「今日は何をしましょうか?」
静香に聞いてみた。
「そうですね……散歩でもしませんか?」
「散歩?」
「はい。特に目的地を決めずに、ゆっくり歩きましょう」
俺たちは大学の近くの公園を歩いた。
「あ、あそこに綺麗な花が咲いてます」
静香が指差す方向に、桜の木があった。
「本当だ。綺麗だな」
「写真を撮りませんか?」
「いいね」
二人でスマートフォンで写真を撮った。計画にはなかった、でもとても素敵な時間だった。
公園のベンチに座って、他愛もない話をした。
「田中さんは、どんな研究をしてるんですか?」
「自然言語処理だよ。AIに人間の言葉を理解させる研究」
「すごいですね。私には全然分からない世界です」
「君の文学の知識も、俺には新鮮だ」
「本当ですか?」
「ああ。今度、君のおすすめの本を教えて」
「喜んで!」
こんな風に、お互いの世界を共有できることが嬉しかった。
「あ、雨が降ってきました」
急に雨が降り出した。
「傘を持ってきてない……」
「大丈夫、一緒に雨宿りしましょう」
俺たちは近くの屋根の下に避難した。文化祭の日を思い出す。
「田中さん、雨の日って多いですね、私たち」
「そうだな。でも、悪くない」
「はい。むしろ特別な感じがします」
計画にない出来事だったが、二人で笑えた。
「これも思い出になるね」
「はい。完璧な計画より、こういう予想外の出来事の方が記憶に残りそうです」
その夜、俺は新しいファイルを作成した。
【恋人関係アルゴリズム ver.1.0】
基本方針:
1. 完璧な計画より、一緒にいる時間を大切にする
2. 相手のペースに合わせる
3. 予想外の出来事も楽しむ
4. お互いの世界を共有する
5. 自然体でいることを心がける
重要な発見:
- 静香は俺の一生懸命さを理解してくれる
- 計画にない出来事も二人なら楽しめる
- 完璧じゃなくても愛情は伝わる
「そうか……恋人関係にも新しいアルゴリズムが必要だったんだ」
翌週、研究室で大輔に報告した。
「今度は自然なデートができたよ」
「おお、やっとか! どうだった?」
「雨に降られたけど、楽しかった」
「雨に降られて楽しいって……お前も変わったな」
歩美からも祝福された。
「田中先輩、とても良い表情をしてますね」
「ありがとう。君のアドバイスも参考になった」
「恋人関係も研究のように、日々学んでいくものですね」
高橋先輩も満足そうだった。
「田中くん、良い方向に向かってますね」
「はい。まだまだ学ぶことは多いですが」
「それが恋愛の楽しさでもありますよ」



