「はじめまして」
衝動的に声をかけた私に、彼は驚いたような顔でこちらを見つめた。
顰められた眉からも、訝しむような気持ちが感じられる。
美しく作られた容姿に、寄ってくる人間が多いのだろう。
無意識だろうけど、こちら側を見極めるような表情になっている。
疑われていないか不安になるけど、その時は“違います”と言えばいいはず。
彼がそんなふうに捻くれているのは勘づいていたから、精神的にも問題はないし……。
「……はぁ……」
そう呟いた彼に、私は話を始める。
「私、死ぬまでに本当の恋を知りたいんです」
周りを見渡し、迷惑そうに顔をしかめた彼。
私は、余命宣告などはされていない。
私の目前にあるのは…………。
そんな、暗い、どうでもいいことを考えながら話を進める。
私が一度 話を切ると、彼は不審そうに言った。
「お前、持病でもあるの? だから時間が無い……ってわけ?」
っ……痛いところを突かれた……声にも表情にも出さず、静かに息を呑む。
一度息を吸った後、言った。
「―――……持病なんてありません。ただ、恋を知りたいんです」
ただの興味本位か……と思われていないか心配になってしまう。
それでも、ふぅん……と、意識してか無意識かは分からないけど、小さくそう言った彼。
「次に、その相手がなぜ僕なのか聞かせて欲しいんだが」
そう尋ねられ、そんな素振りを見せないよう気をつけながら、少し悩む。
簡潔すぎる気もするけど……信じてもらえるかと不安を抱きつつ、きっぱりと告げた。
「顔です」
「は?」
彼の表情から、誤解を招いてしまったことに気がつき、即座に訂正する。
「容姿で選んだ訳ではありません。厳密に言えば、表情です。
貴方の顔は、周りの人と比べて活き活きしてなくて、つまらなそうです。
それで……秘めたる情熱を引き出してみたくなりました」
何一つ、嘘のない説明。
それなのに、彼は、今日一番の噛みつき具合を見せた。
「…………っそんなの無い!」
「声が大きいです……」
私は、彼に向けて言った。 次は自分の考えに自信を持って、はっきりと。
「でも、あります。私には分かりますから」
「だから、無……」
彼の言葉を遮り、口が動く。 心では言いたいと思っていないはずなのに、勝手に。
「興味はありませんか?自分ですら姿を認めていなかった、別の自分に」
しまった、って思った。 こんな挑発するような言葉……失礼が過ぎる。
それでも、私が発した言葉に、ニヤリと、口角を吊り上げた彼。
「面白い。興味は持った」
自分でも失敗したって思ってたのに、面白いって……やっぱり、変わってる人。
ふっと気が緩み、彼を一度見た後、何も考えずに声を出した。
なんて言うかなんて、考えてなかったの。
だから言った後、びっくりしちゃったけど……どこか、納得したんだ。
あぁ、私、この単語を求めてたんだって―――。
「私に、恋をしてみませんか」



