部屋の静けさが、二人の声だけを包み込む。
時計の秒針の音さえ、遠くに消えていく。
「……ちあ」
名前を呼ばれるだけで、胸が震える。
「キス、していい?」
いつも、聞いてこないくせに。
返事をするかわりに、コクっと小さくうなずいた。
ハルくんは、ゆっくりと顔を近づけてくる。赤い目のまま、真剣な瞳で。
私の心臓は、もう限界。逃げたいのに、逃げたくない。
この距離が、怖くて、でも愛しくて。
呼吸が浅くなる。心臓の音が、耳の奥で響いて、自分の声よりも大きく聞こえる。
唇が触れる直前、ハルくんのまつ毛が震えているのが見えた。
目を閉じる瞬間、頬に彼の吐息がかかって、それだけで胸が熱くなる。
そして――
やさしく、ほんの少し触れるだけのキス。
軽くて、柔らかくて、でも、心の奥まで響いてくる。
「……っ」
思わず息が漏れる。
ハルくんは一度離れて、私の顔を見て、もう一度、今度は少し深く唇を重ねてきた。
時間が止まったみたいだった。
部屋の静けさも、時計の音も、全部消えて、ただ二人の鼓動だけが重なっている。
不器用なのに、必死で伝えようとしてくれる。
その気持ちが、唇から全部伝わってきて、涙がまた溢れそうになる。
「……ちあ」
唇が離れた瞬間、名前を呼ばれる。
その声は震えていて、でも確かに幸せそうだった。
私は答えられなくて、ただハルくんの胸に顔を埋める。



