恋のリハーサルは本番です

「今日の稽古、すごくよかったよ二人とも。」



 あかりが笑顔で声をかけると、蓮は少し照れたように頬をかいた。



 「いや、まだまだだよ。でも……ありがとな、あかり」



 美咲も息を整えながら頷く。



 「うん。蓮、だいぶ良くなってきた。高校の頃よりずっと……」



 そこで美咲の声がわずかに揺れ、蓮は不思議そうに彼女を見た。



 「どうした、美咲?」



 美咲は慌てて首を振ったものの、その瞳はどこか迷いを抱えているようだった。



 「ううん、なんでもない。ただ──久しぶりに、蓮が楽しそうに舞台に立ってて……嬉しくて」



 蓮は一瞬だけ目を瞬かせる。



 「……そうか。美咲のおかげだよ。代役、引き受けてくれて本当に助かってる」



 その「ありがとう」に、美咲の表情が一瞬だけ柔らかくほどけた。



 だがその優しさはすぐに消え、彼女はあかりへ視線を向ける。



 「……でも、ね」



 あかりの胸が、ひやりと冷たくなった。



 美咲はゆっくりと、蓮には聞こえないような声で言う。



 「あかりさん。

  あたし、蓮のこと……まだ、好きだから」



 息が止まる。



 蓮は気づかず舞台セットの方へ歩いていく。

 あかりと美咲だけが、その場所に取り残された。



 「あのね、美咲さん……」



 やっと声を振り絞ろうとした瞬間、美咲は続けた。



 「もちろん、迷惑かけるつもりはないよ?

  プロとして舞台はちゃんとやる。でも……

  蓮の隣に立って、思い出したの」



 美咲は胸に手を当てる。



 「高校の頃みたいに、あたしの方が蓮のこと一番わかってる……って」



 その言葉は、あかりの胸に鋭く刺さった。



 けれど、美咲の声はふいにわずか震えていた。



 「でも、今の蓮が誰を見てるかも、ちゃんと知ってるつもり。

  ……だから、余計に悔しいの」



 その一言に、あかりは息を呑む。



 美咲は覚悟を決めたように、まっすぐ言った。



 「だから、言っとくね。

  あたし、蓮のこと……絶対に諦めるつもりはないよ」



 その瞬間──



 「……美咲?」



 蓮が戻ってきた。

 美咲はぱっと表情を戻し、明るい声で答える。



 「何でもないよ。ね、蓮。少し休憩しない?」



 蓮は「ああ」と頷き、二人は並んで隣の休憩スペースへ歩いていった。



 その背中を、あかりはただ見送ることしかできなかった。



 胸の奥に湧き上がるのは、

 切なさと、焦りと……少しの嫉妬。



 ──私は、どうしたらいい?



 気づけば、あかりの視界がほんの少し滲んでいた。



 そこへ、少し離れた場所から誰かが見ていた。



 高峰翔だ。



 彼は腕を組み、二人の距離を見つめながら低く呟く。



 「……さて。物語は面白くなってきたな」



 翔の瞳には、冷静な観察と、何か別の企みの光が宿っていた。