恋のリハーサルは本番です

「……センセ」



 背後から声をかけられ、あかりは振り返った。

 そこに立っていたのは──蓮のライバル、高峰翔。



 「え、あ、はい。何か……?」



 翔はいつもの余裕をまとった笑みを浮かべている。

 けれどその目だけは、何かを探るように細められていた。



 「さっきから、顔色がよくなかった。大丈夫?」



 「え? あ、あの……大丈夫ですっ。ちょっと考え事してただけで」



 慌てて否定したものの、翔は微かに口元を緩めた。



 「考え事、ね。

  ─桜井のことで?」



 心臓が跳ねる音が聞こえた気がした。



 「そ、そんな……別に……」



 「ふふ。図星か」



 からかうような声音。

 だが、その奥にほんの少しだけ優しさのようなものも混じっていた。



 翔はゆっくりと腕を組み、あかりを見下ろすように言う。



 「水無月さん。君は脚本家だろ?」



 「はい……」



 「だったら、もっと自信を持て。

  役者は脚本がなければ舞台に立てない。

  桜井も、美咲も、俺だって──君の物語の上で生きてるんだ」



 あかりは驚きに目を見開いた。



 高峰翔は、何かにつけて蓮と張り合うタイプで、

 まっすぐ優しい蓮とは対照的な強気の俳優だ。



 そんな翔が、自分の脚本を認めている──それが意外すぎた。



 「……ありがとうございます」



 小さく頭を下げると、翔は口元を少し緩めた。



 「礼なんていらない。

  ただ──桜井には負けたくないだけさ。

  センセの脚本に気持ちが乗ってないと、俺が困る」



 その言葉に、あかりの頬がわずかに熱くなった。



 すると、翔はふと声のトーンを落とした。



 「それに──あの二人の距離が縮まってるの、気になるんだろ?」



 図星だった。

 あかりは思わず視線を逸らしてしまう。



 翔は続ける。



 「だったら……見てるだけじゃなくて、動けばいい」



 「……動く?」



 「ああ。脚本家としてじゃない。

  一人の女として、だ」



 その瞬間、あかりの胸が大きく揺れた。



 けれど翔は、それ以上を言わない。

 ただ、視線だけで「あとは君が決めることだ」と告げるようだった。



 そこへ──稽古を終えた蓮と美咲が戻ってくる。



 「……あかり、終わったよ。待っててくれたの?」



 蓮が笑顔で近づいてくる。

 その隣には、どこか嬉しそうな表情の美咲。



 あかりは思わず胸が締め付けられる。



 「……うん。おつかれさま」



 蓮の笑顔はあかりに向いている。

 けれど、美咲が蓮を見る目は──揺るぎない。



 その光景を見て、翔は静かに笑った。



 「さぁ、センセ。

  君は物語の続きをどう書く?」



 その言葉は、挑発にも、励ましにも聞こえた。



 あかりは胸の前で拳をぎゅっと握る。



 ──逃げない。

 ──脚本家としても、ひとりの女の子としても。



 ゆっくりと蓮を見上げ、あかりは小さく息を吸った。