翌朝、あかりは机に向かっていた。
ノートパソコンの画面には、新しい舞台の脚本ファイル。
タイトルは──「恋のリハーサル」。
蓮の演技が進化するにつれ、彼の中にある“本物の感情”が、少しずつ台詞の枠をはみ出してきていた。
それを受け止めるために、あかりは夜通し台本を書き直している。
「……違う。こんな軽い言葉じゃ、あの時の表情は表せない」
削除キーを押す。
書いては消して、また書いては消す。
恋をテーマにした脚本を、まるで自分の気持ちを試すかのように。
そのうち、キーボードを打つ手が止まった。
画面には、無意識に打ち込んでしまった一文。
> 『あなたのことが、好きです。』
思わず息を呑んだ。
「……ダメ、これじゃまるで私の気持ちみたい」
慌てて削除しようとした瞬間、ドアのチャイムが鳴った。
心臓が跳ねる。まさか──。
恐る恐るドアを開けると、そこには蓮が立っていた。
「おはようございます。急にすみません」
「れ、蓮さん!? どうしたんですか?」
「今日の台詞、どうしても一度相談したくて。あかりさんの台本、昨日もらった分が……すごくリアルで」
“リアル”。その言葉にあかりの心臓がさらに跳ねた。
「えっと、それは……」
「この台詞、“君を抱きしめたい”ってあるけど、これ、どんな気持ちで言えばいいですか?」
不意に画面をのぞき込まれ、あかりはパニックになる。
「そ、それは……演技の、流れ的に……ええと、純粋な気持ちで!」
「純粋に?」
「そうです!純粋に、心のままに!」
蓮は少し考えてから、ふっと笑った。
「じゃあ、練習してもいいですか? ここで」
「え、えっ!?」
次の瞬間、蓮が一歩近づいた。
距離が近い。
ほんの数十センチ。
あかりの心臓が、キーボードよりも速く打ち始める。
「……あかりさん」
「は、はいっ」
「“君を抱きしめたい”」
穏やかで、まっすぐな声。
その瞳の奥に、台詞じゃない“本音”が見えた気がした。
言葉が出ない。
脚本家として冷静に受け止めなきゃいけないのに、頭が真っ白になる。
気づけば、蓮の腕がほんの少し、あかりの肩に触れた。
「……あ、あのっ!」
「すみません、練習ってわかってても、なんか……止められなくて」
蓮の頬も赤い。
「だって、あかりさんの書く台詞って、本当に心に刺さるんです」
その言葉に、あかりの胸がじんと温かくなった。
けれど同時に、苦しくなる。
「……蓮さん。私、これ以上は“演技”で書けないかもしれません」
「どういう意味ですか?」
「あなたが、本気で演じれば演じるほど……私、混乱するんです」
蓮は黙ってあかりを見つめた。
その瞳には、迷いと優しさと、そしてほんの少しの切なさが混ざっている。
「……じゃあ、俺も正直に言います」
蓮が一歩前に出る。
「俺はもう、リハーサルのつもりじゃいられません」
あかりの喉が震えた。
息を吸い、言葉を探そうとするけれど、何も出てこない。
静かな沈黙。
カーテンの隙間から朝の光が差し込む。
そして、あかりのパソコン画面が再び光を反射した。
そこにはまだ──削除しきれなかった文字が残っていた。
> 『あなたのことが、好きです。』
蓮の目がその文字を捉えた瞬間、空気が止まる。
「……あかりさん、それ」
「ち、違うんです! それは台詞で、誤入力で……!」
顔が真っ赤になる。
必死に説明しようとするあかりに、蓮は小さく笑った。
「誤入力でも、いい言葉ですね」
そして静かに告げた。
「俺も同じ気持ちです」
あかりは一瞬、息を呑み、
次の瞬間、視界が滲んだ。
──恋のリハーサルは、もう“本番”に近づいていた。
ノートパソコンの画面には、新しい舞台の脚本ファイル。
タイトルは──「恋のリハーサル」。
蓮の演技が進化するにつれ、彼の中にある“本物の感情”が、少しずつ台詞の枠をはみ出してきていた。
それを受け止めるために、あかりは夜通し台本を書き直している。
「……違う。こんな軽い言葉じゃ、あの時の表情は表せない」
削除キーを押す。
書いては消して、また書いては消す。
恋をテーマにした脚本を、まるで自分の気持ちを試すかのように。
そのうち、キーボードを打つ手が止まった。
画面には、無意識に打ち込んでしまった一文。
> 『あなたのことが、好きです。』
思わず息を呑んだ。
「……ダメ、これじゃまるで私の気持ちみたい」
慌てて削除しようとした瞬間、ドアのチャイムが鳴った。
心臓が跳ねる。まさか──。
恐る恐るドアを開けると、そこには蓮が立っていた。
「おはようございます。急にすみません」
「れ、蓮さん!? どうしたんですか?」
「今日の台詞、どうしても一度相談したくて。あかりさんの台本、昨日もらった分が……すごくリアルで」
“リアル”。その言葉にあかりの心臓がさらに跳ねた。
「えっと、それは……」
「この台詞、“君を抱きしめたい”ってあるけど、これ、どんな気持ちで言えばいいですか?」
不意に画面をのぞき込まれ、あかりはパニックになる。
「そ、それは……演技の、流れ的に……ええと、純粋な気持ちで!」
「純粋に?」
「そうです!純粋に、心のままに!」
蓮は少し考えてから、ふっと笑った。
「じゃあ、練習してもいいですか? ここで」
「え、えっ!?」
次の瞬間、蓮が一歩近づいた。
距離が近い。
ほんの数十センチ。
あかりの心臓が、キーボードよりも速く打ち始める。
「……あかりさん」
「は、はいっ」
「“君を抱きしめたい”」
穏やかで、まっすぐな声。
その瞳の奥に、台詞じゃない“本音”が見えた気がした。
言葉が出ない。
脚本家として冷静に受け止めなきゃいけないのに、頭が真っ白になる。
気づけば、蓮の腕がほんの少し、あかりの肩に触れた。
「……あ、あのっ!」
「すみません、練習ってわかってても、なんか……止められなくて」
蓮の頬も赤い。
「だって、あかりさんの書く台詞って、本当に心に刺さるんです」
その言葉に、あかりの胸がじんと温かくなった。
けれど同時に、苦しくなる。
「……蓮さん。私、これ以上は“演技”で書けないかもしれません」
「どういう意味ですか?」
「あなたが、本気で演じれば演じるほど……私、混乱するんです」
蓮は黙ってあかりを見つめた。
その瞳には、迷いと優しさと、そしてほんの少しの切なさが混ざっている。
「……じゃあ、俺も正直に言います」
蓮が一歩前に出る。
「俺はもう、リハーサルのつもりじゃいられません」
あかりの喉が震えた。
息を吸い、言葉を探そうとするけれど、何も出てこない。
静かな沈黙。
カーテンの隙間から朝の光が差し込む。
そして、あかりのパソコン画面が再び光を反射した。
そこにはまだ──削除しきれなかった文字が残っていた。
> 『あなたのことが、好きです。』
蓮の目がその文字を捉えた瞬間、空気が止まる。
「……あかりさん、それ」
「ち、違うんです! それは台詞で、誤入力で……!」
顔が真っ赤になる。
必死に説明しようとするあかりに、蓮は小さく笑った。
「誤入力でも、いい言葉ですね」
そして静かに告げた。
「俺も同じ気持ちです」
あかりは一瞬、息を呑み、
次の瞬間、視界が滲んだ。
──恋のリハーサルは、もう“本番”に近づいていた。



