その日以来、あかりは蓮と距離を置いていた。
仕事のメールは必要最低限、返信も端的。
会議で顔を合わせても、視線を交わさない。
けれど、画面の中では彼の姿ばかりを追ってしまう。
撮影現場での彼の芝居、声、笑顔。
どれも「恋のリサーチ」中の蓮ではなく、役者・桜井蓮としての彼だった。
──もう、あの時間には戻れない。
そう言い聞かせながら、あかりはノートパソコンを開く。
新しい脚本のタイトルを打ち込む指先が、ふと止まった。
タイトル欄に浮かんでいるのは、
《もう一度、リハーサルを》
「……どうして、こうなるのよ」
あかりは頭を抱えた。
恋愛をテーマにしたはずの脚本が、気づけば自分の心の中身そのままだった。
──そんなとき。
ドアが軽くノックされた。
プロデューサーの川端が顔を出す。
「水無月さん、次の稽古、台本リーディングに変更になったから。時間、空けといてね」
「リーディング……ですか?」
「うん。主演の二人が感情の流れを掴みたいって。蓮くんからの希望」
心臓が跳ねた。
まさかと思いながらも、あかりは小さく頷いた。
稽古場に入ると、すでに蓮が待っていた。
彼は真剣な表情で台本を読み返している。
その姿を見ただけで、胸が痛む。
「……来てくれたんだな」
「仕事ですから」
冷たく返すあかりに、蓮は苦笑した。
リーディングが始まる。
台本の中のセリフは、まるで二人自身のようだった。
> 「君のことなんて、もう何も思ってない。」
「本当に? だったら、なんでそんな顔をしてるの?」
声に出すたび、現実と芝居の境界が曖昧になる。
あかりは、演技ではなく本心で言ってしまいそうになった。
読み終わると、沈黙が訪れた。
空調の音すら、やけに大きく感じる。
「……もう一度、リハーサルしよう」
蓮の言葉に、あかりは顔を上げた。
「何を、ですか?」
「俺たちの関係。やり直したいんだ」
「そんな簡単に言わないで」
「簡単じゃない。だから“リハーサル”なんだ」
蓮は優しく笑った。
「最初みたいに、恋のリサーチから始めよう。今度はちゃんと、恋を演じ切るから」
その言葉に、あかりの心が揺れる。
演じる恋──でも、もう演技と現実の区別なんて、つかない。
「……また、振り回されるかもしれませんよ」
「上等だ」
蓮がにっと笑う。その笑顔が、ずるいほどまぶしかった。
あかりは小さくため息をつき、ノートパソコンを開いた。
「じゃあ、書き直します。“恋のリハーサル2.0”ってところね」
「いいタイトルだな」
そして二人は、もう一度同じ舞台の上に立つ準備を始めた。
今度こそ、本番のために。
仕事のメールは必要最低限、返信も端的。
会議で顔を合わせても、視線を交わさない。
けれど、画面の中では彼の姿ばかりを追ってしまう。
撮影現場での彼の芝居、声、笑顔。
どれも「恋のリサーチ」中の蓮ではなく、役者・桜井蓮としての彼だった。
──もう、あの時間には戻れない。
そう言い聞かせながら、あかりはノートパソコンを開く。
新しい脚本のタイトルを打ち込む指先が、ふと止まった。
タイトル欄に浮かんでいるのは、
《もう一度、リハーサルを》
「……どうして、こうなるのよ」
あかりは頭を抱えた。
恋愛をテーマにしたはずの脚本が、気づけば自分の心の中身そのままだった。
──そんなとき。
ドアが軽くノックされた。
プロデューサーの川端が顔を出す。
「水無月さん、次の稽古、台本リーディングに変更になったから。時間、空けといてね」
「リーディング……ですか?」
「うん。主演の二人が感情の流れを掴みたいって。蓮くんからの希望」
心臓が跳ねた。
まさかと思いながらも、あかりは小さく頷いた。
稽古場に入ると、すでに蓮が待っていた。
彼は真剣な表情で台本を読み返している。
その姿を見ただけで、胸が痛む。
「……来てくれたんだな」
「仕事ですから」
冷たく返すあかりに、蓮は苦笑した。
リーディングが始まる。
台本の中のセリフは、まるで二人自身のようだった。
> 「君のことなんて、もう何も思ってない。」
「本当に? だったら、なんでそんな顔をしてるの?」
声に出すたび、現実と芝居の境界が曖昧になる。
あかりは、演技ではなく本心で言ってしまいそうになった。
読み終わると、沈黙が訪れた。
空調の音すら、やけに大きく感じる。
「……もう一度、リハーサルしよう」
蓮の言葉に、あかりは顔を上げた。
「何を、ですか?」
「俺たちの関係。やり直したいんだ」
「そんな簡単に言わないで」
「簡単じゃない。だから“リハーサル”なんだ」
蓮は優しく笑った。
「最初みたいに、恋のリサーチから始めよう。今度はちゃんと、恋を演じ切るから」
その言葉に、あかりの心が揺れる。
演じる恋──でも、もう演技と現実の区別なんて、つかない。
「……また、振り回されるかもしれませんよ」
「上等だ」
蓮がにっと笑う。その笑顔が、ずるいほどまぶしかった。
あかりは小さくため息をつき、ノートパソコンを開いた。
「じゃあ、書き直します。“恋のリハーサル2.0”ってところね」
「いいタイトルだな」
そして二人は、もう一度同じ舞台の上に立つ準備を始めた。
今度こそ、本番のために。



