恋のリハーサルは本番です

夜の街灯の下。
蓮の告白の言葉が、まだ胸の奥に響いている。

> 「俺、本当に、水無月さんが好きです」



──“リハーサルじゃなくて、本番”。

あの一言が、あかりの心を完全に揺さぶっていた。
けれど、同時に、理性が彼女の手を掴んで離さなかった。

(だめ。私、脚本家なんだよ?
俳優さんとそんな関係になったら──)

「……ごめんなさい」

ようやく絞り出した言葉は、あまりにも小さく、かすれていた。

「え?」
蓮が驚いた顔をする。

「今のは……忘れてください。
私たち、今は作品を作っている仲間です。
恋愛なんてしたら、作品が壊れちゃうかもしれない」

あかりの声は震えていた。
本当は“忘れたくない”。
でも、言わなければ、前に進めない気がした。

「……そう、ですね。確かに、そうかもしれません」

蓮は静かに笑った。
その笑顔が、あかりには少し痛かった。

「リサーチの続き、お願いします。
中途半端で終わらせたくないので」

「え……?」

「“恋愛リサーチ”ですよ。あれが終わるまでは、俺、役者として全力で向き合います」

蓮の目は、まっすぐだった。
まるで“恋を演じる”決意をした俳優のように。

あかりは、うつむいて頷いた。
「……わかりました。続けましょう。リサーチを」

(そう、これは“仕事”。
恋じゃない。恋じゃない……)

──だけど。

「次はどこに行きます?」
蓮が笑顔で尋ねる。

「えっと……遊園地、とか?」
口にした瞬間、顔が赤くなった。

「いいですね。じゃあ、次のリサーチはデートってことで」

蓮の無邪気な笑顔に、あかりの胸がまた跳ねた。
“本気を隠すためのリハーサル”。
それが、どれほど苦しいものか、まだ二人は知らなかった。




数日後。

「わあ、観覧車がきれい!」
遊園地の夕暮れ。
あかりは久しぶりに子どものような笑顔を見せた。

「まるで映画のワンシーンですね」
蓮が微笑む。

「このシチュエーション、脚本に使えそう」
あかりは慌ててノートパソコンを開き、夢中でタイプし始めた。

「今、思いついた台詞があるんです」

「へえ、どんなのですか?」

「……“好きになっちゃ、ダメなのに”」

蓮の笑顔が、一瞬だけ止まった。
打ち込む指が止まる。
二人の間に、観覧車のライトが淡く揺れる。

「それ、いい台詞ですね」
蓮は小さく笑い、空を見上げた。

「でも──台詞じゃなくて、本音みたいです」

「えっ?」

あかりが顔を上げると、蓮は視線を外していた。
まるで“演技の延長線上”に逃げ込むように。

──お互いがわかっている。
この感情は、本物だと。
だけど、認めたら“仕事”が終わってしまう。

恋を守るために、恋を否定する。
そんな不器用な二人の“リハーサル”は、
まだ続いていく。