深夜零時を回った。
蓮はベッドに横たわったまま、天井のシミをぼんやり見つめていた。
スマホの画面が、枕元でほのかに光っている。
通知は、ひとつもない。
「あかりさん、もう寝たかな……」
彼女に送ろうか迷って、書いては消したメッセージがいくつも残っていた。
> 『今日の稽古、楽しかったです』
『またアドバイスください』
『明日、少し話せますか?』
どれも送信ボタンを押せないまま、下書きのフォルダに眠っている。
(なんで、こんな簡単な言葉ひとつ送れないんだ)
指先が震える。
スマホの明かりが、夜の部屋にやさしく滲んだ。
机の上には、台本が開かれている。
《恋のリハーサル》──第3幕のクライマックス。
「僕は君に出会って、やっと“本当の自分”を見つけたんだ」
稽古で何度も繰り返した台詞。
けれど今、それはもう“演技”じゃなくなっていた。
「……俺、本当に、あかりさんに出会って変わった」
初めて彼女と会ったときのことを思い出す。
完璧主義で、失敗を恐れてばかりいた自分。
そんな自分を、彼女は笑いながら肯定してくれた。
「蓮さんの“そのまま”が、いちばん素敵ですよ」
その言葉が、心の奥に灯りをともした。
演技だけでなく、生き方まで少しずつ変わっていった。
(もっと話したい。もっと笑わせたい。もっと──)
思考がそこまで進んだとき、胸がぎゅっと締めつけられた。
演出家としてではなく、脚本家としてでもなく。
ひとりの女性として、あかりのことを想っている。
でも、それを口に出す勇気はまだない。
蓮は机に戻り、ペンを取り上げた。
そして、台本の余白に小さく書いた。
> 「好きです」
ほんの一言。
でも、心の底から滲み出た言葉だった。
その文字を見つめて、蓮は微笑む。
「……台詞としてなら、言えるのにな」
自嘲気味に笑って、ノートを閉じた。
スマホの画面がまた光った。
通知ではなかった。
ただ、ロック画面に浮かぶ時間──午前0時33分。
指が迷いながら、メッセージアプリを開く。
そして、ためらいがちに文字を打ち始めた。
> 『今日も、お疲れさまでした。脚本、無理しないでくださいね。』
……送る?
心臓が跳ねた。
深呼吸をひとつ。
そして──指を止めた。
「やっぱり、今はやめておこう」
送信ボタンを押さずに、スマホを伏せる。
画面の光が消えると、部屋はまた静寂に包まれた。
ベッドに戻り、天井を見上げながら呟く。
「いつか……本番で、ちゃんと伝えられたらいいな」
その声は、誰にも届かない。
けれど確かに、彼の胸の奥で、物語が動き始めていた。
蓮はベッドに横たわったまま、天井のシミをぼんやり見つめていた。
スマホの画面が、枕元でほのかに光っている。
通知は、ひとつもない。
「あかりさん、もう寝たかな……」
彼女に送ろうか迷って、書いては消したメッセージがいくつも残っていた。
> 『今日の稽古、楽しかったです』
『またアドバイスください』
『明日、少し話せますか?』
どれも送信ボタンを押せないまま、下書きのフォルダに眠っている。
(なんで、こんな簡単な言葉ひとつ送れないんだ)
指先が震える。
スマホの明かりが、夜の部屋にやさしく滲んだ。
机の上には、台本が開かれている。
《恋のリハーサル》──第3幕のクライマックス。
「僕は君に出会って、やっと“本当の自分”を見つけたんだ」
稽古で何度も繰り返した台詞。
けれど今、それはもう“演技”じゃなくなっていた。
「……俺、本当に、あかりさんに出会って変わった」
初めて彼女と会ったときのことを思い出す。
完璧主義で、失敗を恐れてばかりいた自分。
そんな自分を、彼女は笑いながら肯定してくれた。
「蓮さんの“そのまま”が、いちばん素敵ですよ」
その言葉が、心の奥に灯りをともした。
演技だけでなく、生き方まで少しずつ変わっていった。
(もっと話したい。もっと笑わせたい。もっと──)
思考がそこまで進んだとき、胸がぎゅっと締めつけられた。
演出家としてではなく、脚本家としてでもなく。
ひとりの女性として、あかりのことを想っている。
でも、それを口に出す勇気はまだない。
蓮は机に戻り、ペンを取り上げた。
そして、台本の余白に小さく書いた。
> 「好きです」
ほんの一言。
でも、心の底から滲み出た言葉だった。
その文字を見つめて、蓮は微笑む。
「……台詞としてなら、言えるのにな」
自嘲気味に笑って、ノートを閉じた。
スマホの画面がまた光った。
通知ではなかった。
ただ、ロック画面に浮かぶ時間──午前0時33分。
指が迷いながら、メッセージアプリを開く。
そして、ためらいがちに文字を打ち始めた。
> 『今日も、お疲れさまでした。脚本、無理しないでくださいね。』
……送る?
心臓が跳ねた。
深呼吸をひとつ。
そして──指を止めた。
「やっぱり、今はやめておこう」
送信ボタンを押さずに、スマホを伏せる。
画面の光が消えると、部屋はまた静寂に包まれた。
ベッドに戻り、天井を見上げながら呟く。
「いつか……本番で、ちゃんと伝えられたらいいな」
その声は、誰にも届かない。
けれど確かに、彼の胸の奥で、物語が動き始めていた。



