恋のリハーサルは本番です

亜理沙の一言は、
爆弾というより、
確認のつもりで落とされた起爆装置だった。

「……え?
あれ?
これって普通に──三角関係、ですよね?」

その瞬間、
あかりの中で物語の筋書きが音を立てて崩れた。

「……は?」

声が、思ったより高く出た。

否定でも肯定でもなく、ただの思考停止音。

「だって」

亜理沙は悪びれもせず、指を折る。

「翔さんはあかりさんに好意を隠してないし」

「蓮さんは“待つ”って言ってるし」

「で、あかりさんは……どっちにもちゃんと反応してる」

にこっと笑う。

「これ、三角関係じゃなかったら何です?」

──違う。

違うはずだった。

あかりの中では、

・翔は“大人の余裕がある人”
・蓮は“越えない人”

その二つは交わらない線で、
自分はその間を、ただ揺れているだけの存在だった。

「……違う」

反射的に口に出た。

「私は……そんなつもりじゃ……」

でも、続かない。

亜理沙が首をかしげる。

「“そんなつもり”って、どんなつもりですか?」

──脚本がない。

言い訳用の台詞も、
整理された感情も、
自分を正当化するナレーションも、
一行も用意されていなかった。

胸の奥が、ぎゅっと縮む。

翔の、まっすぐな声。

「だから俺は言う」

蓮の、抑えた背中。

「待つよ」

それが、
同時に思い出される。

「あ……」

小さく漏れた声に、

亜理沙は一瞬だけ、真顔になった。

「あかりさん」

その声は、無邪気だけど逃がさない。

「選ばなくてもいい、って思ってました?」

──図星。

心臓が、嫌な音を立てた。

「……ちが……」

否定しようとして、
否定できない自分に気づく。

「……分からなかっただけ」

言った瞬間、
それが一番ずるい答えだと分かってしまった。

亜理沙はため息をつかない。

責めもしない。

ただ、淡々と。

「分からないままでも、
相手はちゃんと“覚悟”してる場合、ありますよ」

その言葉が、
胸の奥に、静かに突き刺さる。

──蓮は、越えない覚悟をしていた。
──翔は、踏み込む覚悟を見せていた。

なのに自分は。

「……私」

声が震える。

「私、何してたんだろ……」

亜理沙は、少しだけ笑った。

「今、気づいたならセーフ、かもですね」

「……かも?」

「うん。
でも」

一拍置いて。

「このまま“何もしない”は、
一番きれいに全員を傷つけるルートです」

完全に、脚本崩壊。

予定調和も、
安全な立ち位置も、
“考える時間”という逃げ道も、
全部消えた。

残ったのは、
──誰かの覚悟に、
自分がどう向き合うか。

あかりは、
その夜初めて、
逃げずに感情を直視していた。