──同じ夜。
桜井蓮は、ベッドに横になったまま、天井を見つめていた。
部屋の明かりは消しているのに、頭の中だけがやけに明るい。
(眠れないな……)
理由はわかっている。
今日の稽古終わり、舞台袖で見た水無月あかりの背中。
台本を抱えたまま、誰にも気づかれないように
一人、少しだけ肩を落としていた姿。
声をかけようとして、やめた。
脚本家にとって、沈黙は作業の一部だと知っているから。
──でも。
(あの顔は……)
創作に没頭している顔じゃなかった。
もっと、個人的で。
もっと、誰かに触れられたくない種類の、脆さ。
蓮は、ゆっくりと息を吐く。
(二作連続主演。順調。評価も上々)
世間的には、何も問題ない。
翔からの対抗心も、痛いほど伝わってくる。
舞台俳優として、恋のライバルとして。
(……なのに)
あかりの前では、自分の立ち位置が曖昧になる。
彼女は、俳優を見上げない。
過剰に持ち上げない。
必要なら、容赦なく切る。
その公平さが、心地よくて。
同時に、怖かった。
(脚本家と俳優)
その線を、彼女は決して越えない。
だからこそ──
(俺は、越えたくなる)
蓮は、思わず顔を覆った。
「……厄介だな」
小さく笑って、でも笑いきれない。
今日の稽古で、彼女が書き直したワンシーン。
ヒロインが一瞬だけ目を伏せる、沈黙の間。
(あれ……)
説明はなかった。
理由も聞かなかった。
でも、あの沈黙が入った瞬間、
ヒロインの恋は、言葉よりも深くなった。
(……書いてるな)
自分の感情を。
誰にも言わずに。
蓮は、ベッドから起き上がり、スマホを手に取る。
連絡先を開いて、止まる。
(今は……だめだ)
今声をかけたら、
彼女の夜を、壊してしまう気がした。
代わりに、メモアプリを開く。
明日の稽古用の、個人的なメモ。
『沈黙の一拍を、大切に。
ヒロインは、もう気づいている』
打ち終えて、スマホを伏せる。
(気づいているのは……)
誰だ。
窓の外、同じ月が浮かんでいる。
同じ夜に、
同じ「書けない理由」と向き合いながら。
二人とも、まだ知らないふりをしているだけだった。
桜井蓮は、ベッドに横になったまま、天井を見つめていた。
部屋の明かりは消しているのに、頭の中だけがやけに明るい。
(眠れないな……)
理由はわかっている。
今日の稽古終わり、舞台袖で見た水無月あかりの背中。
台本を抱えたまま、誰にも気づかれないように
一人、少しだけ肩を落としていた姿。
声をかけようとして、やめた。
脚本家にとって、沈黙は作業の一部だと知っているから。
──でも。
(あの顔は……)
創作に没頭している顔じゃなかった。
もっと、個人的で。
もっと、誰かに触れられたくない種類の、脆さ。
蓮は、ゆっくりと息を吐く。
(二作連続主演。順調。評価も上々)
世間的には、何も問題ない。
翔からの対抗心も、痛いほど伝わってくる。
舞台俳優として、恋のライバルとして。
(……なのに)
あかりの前では、自分の立ち位置が曖昧になる。
彼女は、俳優を見上げない。
過剰に持ち上げない。
必要なら、容赦なく切る。
その公平さが、心地よくて。
同時に、怖かった。
(脚本家と俳優)
その線を、彼女は決して越えない。
だからこそ──
(俺は、越えたくなる)
蓮は、思わず顔を覆った。
「……厄介だな」
小さく笑って、でも笑いきれない。
今日の稽古で、彼女が書き直したワンシーン。
ヒロインが一瞬だけ目を伏せる、沈黙の間。
(あれ……)
説明はなかった。
理由も聞かなかった。
でも、あの沈黙が入った瞬間、
ヒロインの恋は、言葉よりも深くなった。
(……書いてるな)
自分の感情を。
誰にも言わずに。
蓮は、ベッドから起き上がり、スマホを手に取る。
連絡先を開いて、止まる。
(今は……だめだ)
今声をかけたら、
彼女の夜を、壊してしまう気がした。
代わりに、メモアプリを開く。
明日の稽古用の、個人的なメモ。
『沈黙の一拍を、大切に。
ヒロインは、もう気づいている』
打ち終えて、スマホを伏せる。
(気づいているのは……)
誰だ。
窓の外、同じ月が浮かんでいる。
同じ夜に、
同じ「書けない理由」と向き合いながら。
二人とも、まだ知らないふりをしているだけだった。



