稽古後の劇団ロビー。
人が引いた静かな時間帯。 自販機の前で、姫野亜理沙は落ち着きなく足を揺らしていた。
その正面には──
ノートパソコンを抱えた 水無月あかり。
(……なんで私、脚本家に恋愛相談されてるんだろ)
「あの……水無月さん」
亜理沙が、やけに真剣な顔をする。
「ちょっと……相談、いいですか?」
「え?」
「恋愛の、相談です」
あかり、固まる。
「……はい?」
亜理沙は一気に言った。
「桜井さんって、
あれ、無自覚で人を落とすタイプですよね?」
「……っ」
あかり、言葉に詰まる。
(否定、できない)
「最初は、主演だからって思ってました」
「でも、目を合わせたときとか、
台詞の間の取り方とか……」
亜理沙は胸に手を当てる。
「……普通に、ドキドキしました」
まっすぐな言葉。
あかりの心が、ざわつく。
(……正直すぎる)
あかりは、ゆっくり息を整える。
「……姫野さん」
「はい」
「私は……脚本家です」
「だから、役者さんの恋愛には、
基本的に口出ししないようにしてます」
亜理沙、しゅん。
「……ですよね」
(ほっとする自分が、嫌)
それでも亜理沙は続ける。
「でも、聞いてほしくて……」
「桜井さん、
誰にでもああなんですか?」
あかりの指が止まる。
(……誰にでも、じゃない)
でも、言えない。
「……少なくとも」
「芝居には、すごく誠実な人です」
逃げの回答。
亜理沙は少し考えて、笑った。
「やっぱり、そうですよね」
「私、ヒロインとして」
「ちゃんと恋してる顔、したいんです」
「だから……」
一瞬、間を置いて。
「もし、私が本気になりすぎたら」
「止めてください」
あかりの胸が、ぎゅっと締まる。
「……脚本家として?」
「……女の先輩として、です」
まっすぐな目。
(なんでこんな役を……)
亜理沙が去ったあと。
あかりは一人、ロビーに残った。
(止めてほしいって……)
(私は、止められる立場?)
ノートパソコンを抱きしめる。
(それとも……)
(本当は、止めたいのは──)
自分自身だった。
その頃、廊下の向こうで。
蓮が翔に言われていた。
「お前さ」
「自分が、どれだけ危険かわかってる?」
「……何が?」
翔は、苦笑する。
「全部だよ」
人が引いた静かな時間帯。 自販機の前で、姫野亜理沙は落ち着きなく足を揺らしていた。
その正面には──
ノートパソコンを抱えた 水無月あかり。
(……なんで私、脚本家に恋愛相談されてるんだろ)
「あの……水無月さん」
亜理沙が、やけに真剣な顔をする。
「ちょっと……相談、いいですか?」
「え?」
「恋愛の、相談です」
あかり、固まる。
「……はい?」
亜理沙は一気に言った。
「桜井さんって、
あれ、無自覚で人を落とすタイプですよね?」
「……っ」
あかり、言葉に詰まる。
(否定、できない)
「最初は、主演だからって思ってました」
「でも、目を合わせたときとか、
台詞の間の取り方とか……」
亜理沙は胸に手を当てる。
「……普通に、ドキドキしました」
まっすぐな言葉。
あかりの心が、ざわつく。
(……正直すぎる)
あかりは、ゆっくり息を整える。
「……姫野さん」
「はい」
「私は……脚本家です」
「だから、役者さんの恋愛には、
基本的に口出ししないようにしてます」
亜理沙、しゅん。
「……ですよね」
(ほっとする自分が、嫌)
それでも亜理沙は続ける。
「でも、聞いてほしくて……」
「桜井さん、
誰にでもああなんですか?」
あかりの指が止まる。
(……誰にでも、じゃない)
でも、言えない。
「……少なくとも」
「芝居には、すごく誠実な人です」
逃げの回答。
亜理沙は少し考えて、笑った。
「やっぱり、そうですよね」
「私、ヒロインとして」
「ちゃんと恋してる顔、したいんです」
「だから……」
一瞬、間を置いて。
「もし、私が本気になりすぎたら」
「止めてください」
あかりの胸が、ぎゅっと締まる。
「……脚本家として?」
「……女の先輩として、です」
まっすぐな目。
(なんでこんな役を……)
亜理沙が去ったあと。
あかりは一人、ロビーに残った。
(止めてほしいって……)
(私は、止められる立場?)
ノートパソコンを抱きしめる。
(それとも……)
(本当は、止めたいのは──)
自分自身だった。
その頃、廊下の向こうで。
蓮が翔に言われていた。
「お前さ」
「自分が、どれだけ危険かわかってる?」
「……何が?」
翔は、苦笑する。
「全部だよ」



