恋のリハーサルは本番です

稽古場。

ラブシーンの確認が続く中、
誰よりも“事件”を起こしているのは──
自覚ゼロの主演・桜井蓮だった。


「じゃあ、ここのシーン」
演出家・佐藤が台本をめくる。
「亜理沙、台詞のあと一拍置いてから、蓮を見る。
桜井、その視線を受け止めて──」
「はい」
蓮は真剣な表情で頷く。

(この人、本当に芝居だけ考えてる……)
あかりは少し不安になる。

亜理沙が台詞を言う。
「……あなたがいないと、私……」
一拍。

蓮、まっすぐ亜理沙を見る。

そして、低い声で。
「……俺は、ここにいる」

沈黙。

「……」

「……」

稽古場が、一瞬静まり返った。

佐藤が、ゆっくり顔を上げる。
「……今の、台本にないな?」

蓮、きょとん。
「え? でも、気持ち的に……」

「“気持ち的に”足したな?」

亜理沙は完全に目がハート。
「なに今の……」
(やば……好き)


あかりの指が止まる。

(ちょっと待って)
(それ、役?それとも……)

心臓が、変な音を立てた。


次の立ち位置確認。

亜理沙が後ろに下がりすぎる。

「危な──」
蓮が肩を抱いて引き寄せる。

距離ゼロ。

「……怪我したら、舞台立てないだろ」

優しすぎる声音。

亜理沙、完全KO。
「はい……」

翔が額を押さえる。
「……こいつ、無意識で人殺すタイプだ」


休憩時間。
あかりがメモを整理していると、蓮が近づく。

「水無月さん」

「はい?」

「さっきのシーン、
言葉、勝手に足してすみません」
真剣な目。

「でも……」
一瞬、言葉を探して。
「書いてくれた台詞が、
自然にそう言わせたんだと思います」

あかりの胸が、ぎゅっとなる。

(……それ、反則)

「……そう、ですか」

「はい」
蓮は照れたように笑う。

「だから、ありがとうございます」

胸キュン三連撃。

あかりは目を逸らす。

(この人、本当に……)


佐藤がぽつり。

「桜井。自覚は?」

「え?」

「君が今、
舞台上でも舞台外でも、
人を落としてる自覚」

「……?」

佐藤、深くため息。
「ないか」

翔が即答。
「ないです」


亜理沙が拳を握る。
「決めました!」
「私、この舞台……」
「全力で恋します!!(役として)」

翔「(怪しい)」

あかり「(不安しかない)」

蓮「……え?」



その日の帰り。

あかりは一人、思う。

(蓮さんは……)

(役だから、脚本だから、
 それだけで済ませてる)

でも。

(私は……そうじゃない)

胸の奥が、静かに熱を持っていた。