恋のリハーサルは本番です

翌日の劇場は、いつもより静かだった。



主演投票結果の発表は今日の終業後。



俳優たちは落ち着かない空気を隠しながら稽古場へ集まっている。



けれど、落ち着かないのは芝居よりも──恋心のほうだった。



あかりが台本を抱えて倉庫の資料棚を探していると、



古い台本の山がぐらりと傾く。



「あっ──!」



崩れ落ちる紙束。



腕が伸びる。温度が近づく。



台本が落ちる前に、誰かが支えてくれた。



「……危ない」



振り返れば、蓮だった。



距離、また近い。



逃げようとしたのに、逃げられない距離。



「倉庫、足場悪いから。……一人で来るなよ」



その声は、舞台の上の誰より優しい。



あかりは思わず返す。



「……舞台、どうなるんでしょうね。

 主演、蓮さんになるかもしれないし……翔さんかもしれないし」



蓮は視線を逸らさない。



「結果は……怖くないこともないです。

 でも、俺は後悔したくない。

 “なんで言わなかったんだ”って、もう思いたくないから」



あかりの鼓動が、一段強く跳ねた。



「な、何を……言うんですか」



蓮は息を吸う。



言ってしまいそうな一歩手前。



「……水無月さん。俺は──」



その瞬間。





ガラッ!!!



「あ──っ! あかりさん!?

 蓮くん!?資料探してるなら言ってよー!!」



姫野亜理沙が派手に登場。



両手いっぱいに小道具箱を抱え、 入口でバランスを崩して盛大に転ぶ。



「きゃー!?ちょ、靴紐ひっかかったー!誰か抱きとめてー!」



……翔が抱きとめる。



「……はいはい、落ち着け。」



「わああ翔さんイケメン……天から降ってきた王子様……」

(※転んだのはあなたです)



そして亜理沙は二人の距離に気づく。



「…………え、なにその距離。

 え? なにごと? もしかして、もう両想い未満両片想い進行中???」



蓮とあかり「違っ…わ…違います!!!!」



全力否定。



でも顔が真っ赤だから説得力ゼロ。



翔は横目で蓮を刺すように見た。



「……言うなら覚悟して言えよ。

 結果出る前に言うのは、俺と真正面から戦うってことだから」



空気が変わる。



ライバルの目だ。



蓮は一瞬だけ息を止めた。



そして、視線で答える。



「それでも……負ける気は、ない」



あかりは何も言えなかった。



言葉を選べば選ぶほど、心だけが前に進んでしまう。



(まだ言っちゃいけない。

 言われちゃいけない。

 結果が出るまで曖昧でいなきゃいけないのに──)



言われたいと思う自分がいる。