恋のリハーサルは本番です

投票結果発表の前夜。

稽古場は静まり返っているのに──

あかりの心臓だけが、うるさい。

(……明日、決まるんだ)

主演は蓮か、翔か。

作品の顔が、明日で変わってしまう。

けれど。 それ以上に胸を締めつけているのは──

(もし……蓮さんが選ばれたら)

(翔さんは、どうするんだろう)

考えたくなくて、考えてしまう。

脚本家なのに、物語の結末に怯えている。

控室の前で角を曲がった瞬間。

「っ……!」

蓮とあかりの顔が至近距離でぶつかりそうになる。

あかりは慌てて後ずさり、台本をわたわた抱え直した。

蓮「あ、あの……大丈夫ですか?」

耳まで赤い。

俳優として堂々としているくせに、こういう瞬間だけ新人みたいになる。

あかり「ぜ、全然っ! だいじょ……っ!」

足がもつれて、転びかける──

蓮が反射的に腕をつかんで引き寄せる。

距離、約10センチ。

息が混ざるくらい近い。

蓮「……落ち着いてください。
 あかりさんが怪我したら、俺……困るんで。」

(“困る”。
 どうしてそんな優しい言い方するの)

顔が上げられない。

翔「──タイミング最悪で悪いけど」

爽やかさ70%、挑発30%の声。

振り向けば翔が腕を組んで立っている。

翔「距離近くね? 稽古か?恋の?」

蓮「っ、ちが……!」

あかり「なっ、なんでもないです!」

そのやり取りを、たまたま通りかかった照明スタッフが見て──

「(……主演争いだけじゃなくて、恋でもか……!?)」

数分後、裏方全員に誤解が広がるのは早かった。


・衣装係「あの距離はもう告白済み」
・音響「あかりさんは蓮派」
・小道具「あいやでも翔が押せばワンチャン」
・メイク「……むしろ三角関係で舞台作れるのでは?」

作れない。

作れないけど、その反応は正しい。

そして最悪なタイミングで神埼が来る。

神埼「……主演の発表前に色恋沙汰で崩れるな。
 誰が主演でも、舞台は続く。
 感情は置いていけ。それがプロだ。」

冷たい一言。

でも逃げ場のない正論。

蓮も翔も、真剣な顔に戻る。

あかりはペンを握りしめる。

(……どっちかを、応援したいのに)

(どっちかを選べって言われたら……)

喉がつまる。

そのとき、背中越しに声が落ちる。

翔「……選ぶなよ。
 今はまだ、誰のものにもならなくていい。」

鼓動が跳ねる。

そして反対側から。

蓮「あかりさんは脚本家で、俺たちは役者です。
 ……だから、あかりさんはここにいてください。
 俺は、それで戦えるから。」

涙が出そうになる。

“結果はまだ出ていないのに”
想いだけが、もう前に進んでしまっている。

運命の投票結果より先に、
三角関係の方が幕を上げてしまった。