恋のリハーサルは本番です

稽古場。

舞台中央には蓮・亜理沙・翔の3人。

水無月あかりは対角線上の席で台本に目を落としている──
ふりをして、視線は何度も蓮へ吸い寄せられていた。

(……また、目で追ってる)

それに気づきたくなくて、ページをめくる指が震える。

演出家・佐藤が手を叩き、指示を出す。

「じゃあこの場面。三角関係が表面化する瞬間だ。
 感情はギリギリまで抑えて、でも“滲ませる”。
 蓮、翔、亜理沙。距離と視線を意識して」

三人が立位置につく──が。

翔は亜理沙の隣にピタッ。

亜理沙は蓮のそばにそろり。

蓮は一歩下がり、二人を見守るような角度。

佐藤が額を押さえた。

「おい。距離感が恋愛偏差値で配置されたみたいになってるぞ。
 誰が誰を好きなのか、観客に丸わかりだろ」

翔が肩をすくめる。

「俺はただ、守りたい人を守る位置にいるだけです」

「私も……落ち着く位置に立っただけで……!
(蓮さんの隣がじゃないですよ!)」

蓮は落ち着いた声で言う。

「自分は、ここでいいです。ちゃんと見るから」

その一言に、あかりの心臓が跳ねた。

(ずるい。そんな言い方……)

蓮が亜理沙の手を取るシーン。

「無理に笑うな。泣いてもいい。
 誰が傷つけても、俺が連れ戻す」

台詞なのに、蓮の声はあまりにも優しい。

亜理沙の目が潤む。

翔が割って入る。

「……じゃあ泣いたら、誰が拭いてくれる。
 言葉じゃなくて、行動で示せよ」

佐藤「高峰、ここは台詞にないぞ!」

翔「アドリブです。リアリティ重視で」

蓮が一歩、翔に近づく。

「……亜理沙が怖がる。下がれ」

間にあるのは、わずか30センチ。

恋愛ドラマのクライマックスみたいな距離感。

稽古場が静まる。

(なんでこんなに息が苦しいの)

あかりは胸に手を当てた。

(蓮の声に揺れて、蓮の眼差しにざわついて、
 蓮が誰に触れるかで胸が痛むなんて)

気づかないふりができなくなる。

──私、もう脚本家の距離じゃいられない。

台本の端に、手書きの文字が落ちた。

「嫉妬って、誰かを嫌いになる感情じゃない。
本当は、誰かを好きだと気づくための痛みだ。」

それは脚本のメモではなく、
気持ちの告白に近かった。

蓮がふと振り返り、あかりと目が合う。

「……あかりさん。大丈夫ですか?」

一秒。

心臓が跳ねる音が聞こえた気がした。

「だ、大丈夫……です。ええと、その……ちょっと、台詞の確認を……」

視線をそらすあかり。

追うように見つめる蓮。

翔はそれに気づき、笑みを深くする。

「へぇ。そっちを見る顔は、さっきのとは違うな」

言葉にすると空気が動く。

三角形の頂点が、ゆっくりとずれ始めた。