恋のリハーサルは本番です

閉じ込められ事件から一夜明け、劇団はいつもよりざわざわしていた。

「昨日さぁ、桜井くんと脚本家さん、二人きりだったんでしょ?」

「え、なにそれ青春?密室で?え、近くない?(語彙力喪失)」

噂は一瞬で広まり、あかりは朝から落ち着かない。

「……ちょっと落ち着いて。誰も間違ったことしてないから」

と、呟くけれど、

顔が真っ赤なので説得力ゼロ。

そこへ、蓮が稽古場に入ってくる。

視線が偶然ぶつかり──
二人同時に顔をそらす。

(昨日の言葉……まだ胸に残ってる)

(逃げないって言った。じゃあ、どうするんだよ俺)

どちらも“前に進みたいのに”近づき方が分からない。

演出家の佐藤が、手を叩く。

「はい!今日は姫野亜理沙の正式参加1日目だ。読み合わせから始めるぞー!」

「よろしくお願いしますっ!!」

元気いっぱいに亜理沙が一礼。 ワンコみたいに尻尾が見える勢い。可愛い。いや、可愛すぎる。

蓮の隣の席に座ると──

近い。

近すぎる。

「あのっ……今日から、絶対足引っ張らないよう頑張ります!」

「う、うん。よろしく」

その瞬間。

ガタンッ! あかりが持っていた台本を落とした。

「み、水無月さん大丈夫ですか!?」

「だ、大丈夫……!」←全然大丈夫じゃない声

翔がくすっと笑う。

「ふたりの距離、急に縮めると爆発するって言ったのに」

「翔さんは黙っててください……!」

この空気、完全にラブコメ火薬庫。

読み合わせが始まると、亜理沙が緊張しすぎて早口になる。

「えっとっ!あのっ!私、貴方のことを――す、すす、好きに──ああああぁぁぁ!!!」

セリフが爆散した。

蓮が優しく声をかける。

「ゆっくりで大丈夫だよ。落ち着いて」

「はひぃ……っ!すみませ……っ」

あかりの胸がチクリと痛む。

(優しい……そういうところ、素敵なのに……
私、また距離の取り方間違えそう)

蓮は気づいて、あかりにそっと視線を送った。

目が合う。

……心臓が跳ねる。

お互い、言葉にはしないけど

“昨日より近い”ことに気づいていた。

稽古が終わり、あかりは台本を抱えて出ようとした瞬間、蓮が追いつく。

「水無月さん……ちょっといいですか」
呼び止められた声が優しくて、胸が揺れる。

「昨日のこと……逃げないで向き合いたいって言ったの、本気です」

「……っ」

「でも、焦らない。
ちゃんと、水無月さんの歩幅に合わせます」

ふわりと、肩に落ちる言葉。

“選んでくれ”じゃなく

“一緒に考えたい”という優しさ。

あかりは、ぎゅっと台本を抱きしめた。

「……ありがとう。
じゃあ……まずは、名前で呼ぶとこから」

蓮は驚いて固まる。

「……あ、あの……それは、その……急じゃ……」

「昨日閉じ込められた距離に比べたら、ずっと健全です」

くすっと笑うあかり。

蓮も、少し照れたように笑う。

「……じゃあ。あかりさん」

名前に宿る体温。

距離が縮まった音がした気がした。

「……はい。蓮さん」

廊下の明かりが揺れる中、

恋が静かに進み始めた。