恋のリハーサルは本番です

夜更けのアパート。

デスクライトだけが灯る部屋で、あかりはノートパソコンの画面を見つめていた。

カーソルが、点滅している。

(……書けない)

いや、正確には──

書けているのに、進めない。

画面には、仮題『恋のリハーサル』の文字。

その下に並ぶ台詞は、どれも真実すぎて、胸が痛む。

「……これは、脚本であって、告白じゃない」

自分に言い聞かせるように、あかりは呟いた。

けれど。

(もし……蓮さんが、この台詞を読んだら)

(どんな顔をするんだろう)

キーボードに置いた指が、止まる。

「……ダメ」

あかりは一度、画面を閉じた。

感情を整理しないまま書けば、

これは“舞台”ではなくなってしまう。







蓮は、鏡の前に立っていた。

まだ台本は手元にない。

それなのに、胸がざわついて仕方がない。

「……感情を、演じる、か」

今までは違った。

恋の台詞も、別れの台詞も、

どこか“他人事”だった。

だが今回は。

(あかりさんの言葉を、俺が言う)

それは、演技なのか。

それとも──

「……逃げるな」

自分に言い聞かせる。

「役者だろ」

そう言って、深く息を吐いた。







同じ頃。

美咲は、稽古用バッグを整理していた。

次の舞台には、まだ立てない。

それでも、劇団を離れるつもりはなかった。

(……ちゃんと、選ばれなかったって、受け止めなきゃ)

蓮の背中を、思い出す。

昔みたいに、並んで笑うことはもうできない。

でも。

(それでも、舞台は好き)

美咲はバッグを閉じ、静かに立ち上がった。

「……私も、前に進も」







別の場所で、翔は台本のプロットを眺めていた。

まだ粗削りな構成。

だが、行間から伝わるものがある。

「……正直すぎだな」

苦笑しつつも、目は真剣だった。

(だからこそ、危うい)

視線を上げ、夜景を見る。

「桜井……」

「お前、どこまで踏み込める?」







夜が明ける。

今日は、読み合わせ。

台本が初めて、役者の声で響く日。

あかりは、パソコンを閉じ、深く息を吸った。

「……脚本家として」

「私は、書いた」

あとは──

受け取ってもらうだけ。