内心やや焦りながら周防くんに一声かけようと、口を開きかける。

 けれど半音分、先を越されてしまった。

「俺、結構我慢強いほうだと思ってるんだけどさ……いい加減、“織”って呼んでよ。敬語もいらないし」

「……私が、ルールを守らない人が嫌いだって知ってるのに、何でそんなこと言うんですか」

「今の俺はちゃんと守ってるよ? 堅苦しい制服、ちゃんと着たし」

「授業を受けないような、不真面目な人もルールを守らない人に入るんです。呼ばせたいなら授業受けてからにしてください」

 周防織という人間は努力が何より嫌いで、生まれ持った才能だけで軽々と高い壁をも超える人。手を付ければ何でもできるオールマイティ人間。

『努力って言葉、俺は好きじゃないんだよね。だから月森サンが努力してるとこ見ると、純粋にすごいなって思うよ』

 不良ではないのに彼が“困り者”と言われる理由は、きっとそういう人間性にあるんだろう。



「月森さん、おはよう。今日も早いね」

「おはようございます。……そういう先輩だって早いじゃないですか」