気だるげな返事を耳にしながら、彼の胸元にネクタイを結ぶ。

 流される私も大概だけど、この人は私が断っただけで本当にネクタイなしで一日過ごした前科持ち。

 私の立場上それを見過ごしてしまったのはまずく、彼の言いなりになるしかない……という話だ。

 面白くない。そんな理由で、平気で校則を破る人の世話を見なきゃいけない私の立場にもなってほしい。

 しかも周防くんは私がルールを守らない人を嫌ってる、ということも知っている。彼のことを性格に難ありって言うんだろう。

「なんか、月森サンの旦那様になった気分」

「周防くんみたいな人、いくらルックスがよくても恋人関係にはなりたくないです」

「ははっ、しんがーい」

 思ってないくせに、なんて言葉は飲み込んでネクタイをキツめに結んだ。

「結構固めにやったねー、取るの大変そう」

「普通の固さだとあなたはすぐ解くので」

 軽口を叩く周防くんをあしらい、腕時計を確認して踵を返す。

 そろそろ挨拶運動の時間だから行かないと。呑気に周防くんの相手をしてる場合じゃない。