「月森さん、少し休もう。顔色がよくないよ」

「そ、そうですかね……気のせいじゃないですか?」

「気のせいだとしても僕にはそう見える。……保健室行こう」

「へっ? あ、ちょ、先輩っ⁉」

 優柔不断ないつもの先輩はどこへやら、迷いなしに手を握って校舎へと連れられる。

 先輩、ちょっと怒ってる……?

 唐突すぎる先輩の行動に直感がそう言っている気がして、先輩に声をかけることもできず私は校舎へ連行されていった。



 結局こんな個人的な悩みで保健室に行くのをためらった私は、風がよく通ると評判の渡り廊下で先輩を引き留めた。

「……先輩、怒ってますか」

「少しだけ。月森さんは頑張り屋だから、また頑張りすぎちゃってるのかなって思って」

 強引に足を止めた私に先輩は驚いたように目を丸くしたけど、すぐに言葉を紡ぐ。

 その言葉には心当たりがあった。

『剣菱先輩、資料できました』

『あ、ありがとう月森さん! ……って、月森さん大丈夫?』

『え……?』

『気のせいだったら申し訳ないんだけど、あんまり体調がよくないように見えて……』