自分に言い聞かせるように口の中で反芻して一呼吸置いてから、ゆっくり扉を開ける。

「し、失礼しまーす……」

「っ⁉」

　少し腰を低くした口調で理科室に足を踏み入れたと同時に、一番奥の机で作業していた人物が大げさに肩を震わせるのが見えた。

　まるで至近距離で雷でも落ちたかのような驚きっぷりに、私までビクッと心臓が跳ねてしまう。

　その人物は体を極限まで萎縮させながら、私へと視線を向けてきた。

　……って、この人って。

「ほ、佛木(ほとぎ)くん……こんなところで何を……？」

「いや、別に……ていうか月森に関係ないこと、だし」

　緑がかった黒髪は長めのふわふわで、オーバーサイズのカーディガンをブレザーの下に着込んでいるのがよく分かる容姿の彼。

　千草色の瞳はこちらを睨んでいるようにも見えて、私は咄嗟に頭を下げる。

「ご、ごめんなさい……いきなり入ってきちゃって」

「……何で来たの」

「えっと、先生に頼まれて忘れ物を取りに……」

「じゃあその忘れ物見つけたら早く出てって」