「ちょっと月森に頼みたいことがあってな。第二理科室に日誌忘れてきたんだが、もうすぐ職員朝礼があって取りに行けないから……頼まれてくれないか?」

 申し訳なさそうに笑う先生に、クッキーから意識を頑張って逸らす私はすぐに頷いてみせる。

 よかった……何かしちゃったわけじゃなくて。

 毎日清く正しく生きているから心当たりは一切ないけど、先生に呼ばれると驚いてしまうものだ。

「分かりました、今から取りに行きます」

「助かる。まぁ第二理科室は遠いし、ゆっくり行ってきていいからな」

「はい!」

 大量のクッキーを抱えた先生が校舎に入っていくのを見送りつつ、腕時計をチラッと見る。

 今からだったら全然HRに間に合う……早いとこ行っておこう。

「月森さんも大変だね」

「でも頼られるのは嫌いじゃないので、これくらいなら全然大丈夫ですよ。先輩だってそういう(たち)じゃないですか」

「それでも、頼られすぎて自分が潰れたら元も子もないからね。ほどほどにするんだよ?」

「分かってますよ。……じゃあ、行ってきますねっ」