嘘と欲求

 早く会わなければ。早く話をしなければ。早く責任を取らなければ。伊織。伊織。伊織。今、どこにいる。見つけた瞬間、飛んでいってしまいたい。ネットの特定班よりも、事態に気づいた教師よりも、早く、早く、伊織に会いたい。

 焦燥感と夏の猛暑に息を乱してしまいながら、ひとまずの目的地である公園を目指して歩くこと十数分。良い予感も悪い予感も何も抱かない諦念にも似た虚無を感じ始めた頃、視線の先で覚えのある風貌をした人物を見かけた。翔真のいる方向へ歩いてきている。目を凝らして無遠慮に眺め、思い切り胸が跳ねた。

 瞬く間に鼓動が速くなり、心音が耳に近くなる。自然と徒歩から早足へ。早足から駆け足へ。変わっていく。人違いかもしれない可能性がないわけではないのに、身体の反応は人違いではないと先走る。毎日書店と公園を何往復しても影も形も見つけられなかった人が、今しっかりと翔真の瞳に映っている。

 あの人は伊織だ。伊織のはずだ。私服姿は初見だったが、身長や歩き方、遠目からでも分かる他にはない独特な雰囲気、それらが記憶の中の伊織と重なる。

 やっと発見した伊織を絶対に逃したくないと必死の形相でダッシュする翔真は、伏し目がちでありながらもどことなく余裕のある所作でゆっくりと歩く伊織との距離を縮めた。

 まっすぐ伊織だけを見つめる。奇行に走るほどに探し求めていた伊織に向かって、一目散に駆ける翔真の口が開く。気配を感じたように伊織が顔を上げた。視線が絡み合った。翔真は開けた口から息を吸い、吐くと同時に喉を震わせた。

「あま、みや」

 息も絶え絶えの掠れた声だった。余裕もないのに無理して発声したせいか、喉が詰まる感覚がして思わず咳き込む。

 息苦しさに走っていられなくなった翔真は、胸を押さえて立ち止まった。気が急いていても、もっとスマートに伊織の前に姿を表したかったが、少々鈍臭い節のある翔真である。かっこよくは決めきれなかった。