嘘と欲求

 機械的に英文を写し続け、キリのいいところで手を止めた。さて、いいねはどうなっているだろう。翔真は胸を弾ませながらSNSを確認する。数字は大幅に増えている。天にも昇るような気持ちに全身が熱くなる。まだまだ伸びそうだ。伊織の効果は絶大だ。

 悦に入る翔真は自身の過去の投稿を眺めた。伊織と猫の画像以外にもちらほらといいねが届いていた。特に、最近落とした小説に関する投稿に多く集まっている。読書初心者の下手な感想であっても肯定されている。読書家の人たちに歓迎されている。温かな波が胸に迫った。

 勧められた本は、無事に最後まで読み切っていた。伊織の言った通り、慣れていなくても読みやすく、また面白い本だった。他にも楽しく読めてしまえる本があるのかもしれないと思うと、偶然を装って伊織に会う目的以外で書店に寄ってみたくなった。

 だったら、と翔真は一人頷く。だったら、行くしかないのではないか。近々書店に寄るつもりではあった。その近々が、きっと今日だ。普段よりも腰は軽い。足も軽い。気力もある。ここはもう行くしかない。翔真はスマホと財布を持って家を飛び出した。

 時折、SNSを覗いた。ふわふわと空高く飛んでいきそうになった。心なしか、雲が近い。手を伸ばせば届いてしまうかもしれない。自分は空を飛んでいるのかもしれない。

 浮かび上がって有頂天になっている翔真はにやにやしてしまった。誰も自分が、SNSでバズっている投稿の中の人だとは思うまい。イケメンの親友を持っている人だとも思うまい。

 親友ではないのに親友だと嘘を吐いている罪悪感はなくなっていた。満たされていく承認欲求が、罪の意識を掻き消していた。伊織を親友にしたことも、伊織を盗撮したことも、全ては大量のいいねを獲得するため。伊織はイケメンなのだから。イケメンでなければ、わざわざ伊織を親友に選びなどしなかった。

 ネット上に解き放った伊織の顔面のおかげで釣れた、数え切れないほどのいいね。それをしっかり閉じ込めたスマホを握り締め、翔真はスキップしてしまいそうなくらい軽い足取りで書店の自動ドアを潜った。