嘘と欲求

 気づかぬうちに狭まっていた視野が徐々に開けていく。翔真は顔を上げる。意味もなく天井を見つめる。心を落ち着かせるように目を閉じる。

 全身が熱くなっていた。真っ黒な感情に飲み込まれそうになっていた。数回深呼吸を繰り返す。ゆっくりと瞼を持ち上げ、スマホを見下ろす。投稿する文章を打ち込む画面のままである。翔真は胸を撫で下ろした。

 投稿できなくてよかった。こんな汚いものを落とさずに済んでよかった。親友という表記で通してきた伊織の本名すら出してしまうほどに感情的になっている、本性剥き出しの馬鹿みたいな文章を、誰かに見られる場所に落とさずに済んでよかった。

 翔真は読み返したくもない投稿を消去し、自身のプロフィールを開いた。いつ見ても何も変わらない。変えていない。投稿内容も陳腐なものばかり。特別なのは伊織と猫の画像付きの投稿のみだ。これに最も動きがあってほしいのに、いいねも一切届かなくなりすっかり沈黙していた。

 冷静さを取り戻しはしたが、不満は払拭されていない。翔真は増える気配のないいいねにもどかしさを覚えた。

 深い溜息を吐きながらスマホを手放し、両肘をついて頭を抱える。伊織の画像は猫と共に写したものしかない。あの画像がダメなら、もっと別の、伊織の顔がよく見える画像である方がいいのかもしれない。それなら、一目見てすぐにイケメンだと分かる。

 夏休み中に最低一回でも、伊織の姿を見なければ。見て写真を撮らなければ。何が何でも撮らなければ。親友はイケメンなのだから。

 翔真は乱暴に前髪をかきあげ、回転椅子の背に凭れかかった。椅子が呻くように軋んだ。モヤモヤとイライラが刺激された。乱れた心を整えたいのに、ストレス発散の方法すら分からなくなっていた。自分はいつもどのようにして、胸に渦巻く蟠りを溶かしていたのだろう。

 溜息ばかりが漏れる。物に当たりたくなってくる。行儀悪く貧乏ゆすりをしてしまいそうになる。部屋には誰もいないため何をしようと気にする必要もないが、虫の居所が悪いからといって、何かに当たったり膝をゆすったりするのが癖になってしまったら大変だ。