嘘と欲求

 道中にある適当な家の門を叩いて尋ねる方法も思案してみたが、翔真はコミュニケーション能力が低いが故の無口な人種であった。人と話すのが下手なわけではない伊織の口数の少なさとは訳が違うのである。

 他人の家のインターフォンを鳴らす。出てきた人に身分を打ち明け、人を探している旨を伝える。やることを箇条書きにするのは簡単だが、実行するとなると何倍にもレベルが上がる。

 クリアできる気がしない。不審者扱いされて終了する未来が見えた。勘の良い人であれば、翔真の言動から奇怪さを感じ取るだろう。此奴は怪しい、探している人に近づけさせてはならないと、自己満足な正義感を振り翳して警察に通報するかもしれない。

 いくら計画を企てても、良くない噂が立てられそうな悪い展開ばかり浮かんでしまう。元々あるわけでもない自信がどんどん消失していく。見知らぬ誰かに尋ねる方法は即座に却下した。探すのなら、自力で探すしかない。

 伊織に会えそうな場所の第一候補は、間違いなく書店だ。次いで、伊織の帰り道の途中にあった公園。そこに住み着いている可能性のある猫を、また触りに来るかもしれない。待ち伏せして姿を見るだけでなく、新たな写真も撮れたら万々歳だ。

 近いうちに書店か公園に寄ってみるかと結論を出した翔真は、自室の回転椅子に座ったまま大きく伸びをした。一仕事を終えたみたいな気分だった。方針は決まった。後は向かった先で伊織に会えるのを願うしかない。

 翔真は椅子を軋ませて座り直した。思考の渦の中から抜け出すと、机に置くだけ置いている課題の山が現実を突きつけてくる。やらなければならない。

 一つを適当に引っ掴み、雑に広げた。ホッチキスで留められた数学のプリント。一枚捲った。裏にも問題があった。確認したのはこれが初めてではなかった。何度見ても問題はなくならない。なくなるはずもない。

 翔真は無気力な動作で二枚目を捲った。面倒臭かった。課題というものはなぜこんなにも面倒臭いのか。問題を解く気になるスイッチが硬い上に重く、力を込めても動いてくれない。