嘘と欲求

 もし伊織に捕まったら、写真を撮ったことを吐かされる。その後、問答無用で消されてしまうだろう。そんなこと、あってはならない。せっかく撮った貴重な写真を、全て失うなどあってはならない。翔真はスマホを強く握り締めた。

 どのくらい風を切っていたのか。息が苦しくなった。後方に首を巡らせる。伊織はいない。翔真はペースを落として足を止めた。心臓が爆音を立てていた。汗だくになっていた。服が肌に張り付いていた。濡れた体が気持ち悪かった。

 手の甲で流れる汗を拭って、乱れに乱れた呼吸を整える。翔真はスマホを触った。撮影した写真を確認する。伊織と猫ははっきりと映っている。伊織は間違いなくイケメンだ。確実に、猫と戯れているイケメンの写真だ。

 興味を示してくれる人は多いのではないか。三桁や四桁、いや、もしかすると、五桁以上ものいいねが貰えるかもしれない。

 欲望の塊みたいな妄想を繰り広げながら、翔真は画面をスワイプした。伊織と視線が絡み合った。心臓が飛び跳ねる。スマホを取り落としそうになる。

 翔真は顔を上げ、辺りを見回す。どこにも伊織はいない。再び画面を見る。目が合う。そんなはずもないのに、画面に映る伊織が今にも喋り出しそうな恐ろしい気配を感じてしまった。

 汗が額を伝う。拭いもせず、翔真は突発的に該当の写真を消去した。こちらを見ていない伊織の写真に画面が変わり、ホッと胸を撫で下ろす。帰ったら写真を選別してSNSに投稿しようと、気を取り直した翔真は家路に就いた。