嘘と欲求

 翔真は表紙を見て唾を飲んだ。期待に胸が膨らんだ。これは使える。親友から勧められた本としてSNSに投稿できる。シャーペンについて投稿した時に文房具好きの人が反応してくれたように、今度は本好きの人が反応してくれるかもしれない。いいねが貰える絶好のチャンスだ。親友と仲良くできていることもアピールできる。

 決断を下した翔真は一冊を棚に戻し、一冊を手にしたままレジへ直行した。商品を店員に渡す。鞄を弄り財布を取り出す。初めて本を買う。内心緊張していた。高揚にも似ていた。

 読めるだろうか。読めないかもしれない。読めずに保管してしまうかもしれない。それでも伊織が、ネット上で親友にしている伊織が、勧めてくれた本である。買って表紙の画像付きで投稿することに意味がある。いいねを貰えるはずである。

「カバーをお付けしましょうか?」

 商品のバーコードを通し、値段を伝えてくれた店員に事務的に尋ねられた。翔真は財布の中の小銭を掻き集めていた手を止めた。斜め上に目を向ける。脳裏に伊織の姿が浮かぶ。

 本にはいつもカバーを付けて表紙を隠している伊織。その伊織が言った。下手くそだね。カバー付け直すの下手くそだね。下手くそ、下手くそ。

 胸や頭の奥の方がじわじわと熱を持ち始めた。静まっていたはずの腹立たしさがむくむくと膨れ上がっていく。

「お願いします」

 ほぼ衝動的に言っていた。下手くそが頭の中を縦横無尽に駆け回る。下手くそ。下手くそ。下手くそ。

 翔真は乱暴に小銭を手にし、トレイに置いた。置く時のみは、印象が悪くならないよう意識して丁寧に置いた。ちょうどあった。手早くカバーを付け、翔真の出した小銭を確認した店員から本とレシートを受け取る。

 店員が付けてくれたカバーを見た。綺麗な見本だった。これで慣れるまで練習する。もう下手くそなどとは言わせない。必ず見返してやる。強い気持ちを胸に、翔真は書店を後にした。