この機会を逃すまいと本を棚に戻そうとしたその時、西原、と伊織に名前を呼ばれた。手が止まる。体が固まる。無言で伊織の顔を見遣ると、ばっちり目が合った。
とてつもなく嫌な予感がした。険しい顔をした大人に呼び出された時みたいな不安感が胸に広がる。翔真が抱いている懸念など知る由もない伊織が、やおら唇を開いた。
「西原、この前学校で、俺の本触った?」
「……え?」
「触った?」
「……え、な、なんでだよ。ひ、人のもの、勝手に触るわけないだろ?」
質問を噛み砕いて飲み込むのに数秒かかった。一拍も二拍も置いてようやく返した否定の言葉には、隠しきれていない動揺が表れていた。嫌な予感は、最悪な形で的中してしまった。
バレている。本に触ったのがバレている。なぜバレた。本は元の場所に戻したはずだ。まさか、入れる向きが間違っていたのか。上下か裏表が逆だったのか。
自分はどこでミスをしたのかと記憶を遡っていると、もしかして、と思い当たる節が見つかった。
あの時、表紙を見たくてカバーを外した。そこまでは問題なかったはずだ。問題だったのは、外したカバーを戻す時だ。慣れていない上に慌てていたせいもあり、綺麗に付け直せていなかったのかもしれない。それで、疑問を持たれてしまったのか。誰かが本に触ったと。それは、体育の授業に遅れて参加した翔真ではないかと。
「ちょうど、今西原が持っている本を、読み進めていた時だよ」
感情の読み取れない声でさらりと付加した伊織が、抜き出した本を棚に戻した。淡々と指摘された翔真は、まだ自分の手元にある本に視線を落とす。『殺戮にいたる病』。伊織が読んでいるのを知らなければ、絶対に手に取りはしなかった本である。
とてつもなく嫌な予感がした。険しい顔をした大人に呼び出された時みたいな不安感が胸に広がる。翔真が抱いている懸念など知る由もない伊織が、やおら唇を開いた。
「西原、この前学校で、俺の本触った?」
「……え?」
「触った?」
「……え、な、なんでだよ。ひ、人のもの、勝手に触るわけないだろ?」
質問を噛み砕いて飲み込むのに数秒かかった。一拍も二拍も置いてようやく返した否定の言葉には、隠しきれていない動揺が表れていた。嫌な予感は、最悪な形で的中してしまった。
バレている。本に触ったのがバレている。なぜバレた。本は元の場所に戻したはずだ。まさか、入れる向きが間違っていたのか。上下か裏表が逆だったのか。
自分はどこでミスをしたのかと記憶を遡っていると、もしかして、と思い当たる節が見つかった。
あの時、表紙を見たくてカバーを外した。そこまでは問題なかったはずだ。問題だったのは、外したカバーを戻す時だ。慣れていない上に慌てていたせいもあり、綺麗に付け直せていなかったのかもしれない。それで、疑問を持たれてしまったのか。誰かが本に触ったと。それは、体育の授業に遅れて参加した翔真ではないかと。
「ちょうど、今西原が持っている本を、読み進めていた時だよ」
感情の読み取れない声でさらりと付加した伊織が、抜き出した本を棚に戻した。淡々と指摘された翔真は、まだ自分の手元にある本に視線を落とす。『殺戮にいたる病』。伊織が読んでいるのを知らなければ、絶対に手に取りはしなかった本である。



