「それ、面白かったよ」
顔と声がほぼ同時に一致し、翔真は目玉が飛び出そうになった。腰を抜かしてひっくり返りそうになった。伊織だ。伊織だった。平然と話しかけてきたのは、学参売り場にいたはずの伊織だった。
完全に気を抜いていた。確実に伊織と目が合っている。紛れもなく、伊織は自分に声をかけている。
伊織が話しかけてくるなど予想外だった。会話をせずに商品を物色しているふりは通用しない。苦手なアドリブをせざるを得ない。翔真は懸命に動揺を隠しながら、害のない人であろうとした。
「……あ、雨宮じゃん、偶然」
「偶然?」
即座に返ってきた咎めるようなその一言で、ピシッと空気が張り詰めた。書店の穏やかな雰囲気には似つかわしくないほどの緊張感。息が乱れる。口が渇く。
まさか、尾行に気づいているのか。それとも、こちらの反応を見るための単なるはったりか。伊織は一度自分を疑ったことがある。同じ時間帯に書店にいる時点で、勘繰るのは当然かもしれない。しかしここで、白状するわけにはいかない。
「な、何疑ってんだよ。偶然に決まってんだろ? それより、この本、面白かったんだ?」
手にしている本に話題を持っていく。伊織の趣味の話である。誰だって好きなものの話になると気分が良くなるはずである。伊織に気持ちよく話をさせれば、都合の悪い話題から逸れていけるはずである。
そう期待したが、伊織はうんともすんとも言わなかった。翔真の内面を探るかのように凝視してから、ふいと顔を背けて文庫の棚を見る。スッと伸ばされた手が、一冊の本を抜く。冷徹な横顔。自分はもう用無しか。声をかけてきたのはそっちなのに。
非情にも無視され胸が悪くなったが、それならそれでいいとポジティブに考えた。苦手な会話なしで、物理的に離れられるチャンスが訪れただけだ。
顔と声がほぼ同時に一致し、翔真は目玉が飛び出そうになった。腰を抜かしてひっくり返りそうになった。伊織だ。伊織だった。平然と話しかけてきたのは、学参売り場にいたはずの伊織だった。
完全に気を抜いていた。確実に伊織と目が合っている。紛れもなく、伊織は自分に声をかけている。
伊織が話しかけてくるなど予想外だった。会話をせずに商品を物色しているふりは通用しない。苦手なアドリブをせざるを得ない。翔真は懸命に動揺を隠しながら、害のない人であろうとした。
「……あ、雨宮じゃん、偶然」
「偶然?」
即座に返ってきた咎めるようなその一言で、ピシッと空気が張り詰めた。書店の穏やかな雰囲気には似つかわしくないほどの緊張感。息が乱れる。口が渇く。
まさか、尾行に気づいているのか。それとも、こちらの反応を見るための単なるはったりか。伊織は一度自分を疑ったことがある。同じ時間帯に書店にいる時点で、勘繰るのは当然かもしれない。しかしここで、白状するわけにはいかない。
「な、何疑ってんだよ。偶然に決まってんだろ? それより、この本、面白かったんだ?」
手にしている本に話題を持っていく。伊織の趣味の話である。誰だって好きなものの話になると気分が良くなるはずである。伊織に気持ちよく話をさせれば、都合の悪い話題から逸れていけるはずである。
そう期待したが、伊織はうんともすんとも言わなかった。翔真の内面を探るかのように凝視してから、ふいと顔を背けて文庫の棚を見る。スッと伸ばされた手が、一冊の本を抜く。冷徹な横顔。自分はもう用無しか。声をかけてきたのはそっちなのに。
非情にも無視され胸が悪くなったが、それならそれでいいとポジティブに考えた。苦手な会話なしで、物理的に離れられるチャンスが訪れただけだ。



