嘘と欲求

 明日から夏休みだった。長期休暇に歓喜する反面、気軽に伊織の姿を見られなくなると思うと残念な気持ちにもなった。SNSでは親友にしているが、現実は連絡先すら知らない相手である。休日に会う手段はない。奇跡的な偶然を掴むためには、夏休みの間でも適度に伊織を見るためには、どのような対策を講じればいいのか。翔真は一人思い悩んだ。

 終業式や一学期最後のHRも終わった放課後の教室。翔真と同じようにまだ残っているクラスメートの中には、早速遊ぶ約束を取り付けている人たちがいた。翔真には誰かと日程を合わせて遊ぶ相手は一人もいない。寂しくなどない。一人は気楽だ。自由だ。誰にともなく意地を張る翔真は、一人が良いのを証明するように考え事に耽った。

 偶然を装って伊織に会うためには、伊織の行動範囲を知る必要がある。伊織がよく行きそうな場所でまず思い浮かぶのは書店だ。毎日書店に通えばいずれその姿を目にできそうだが、いつの何時頃に来るかまでの判断はできない。だからといって、開店から閉店まで何も買わずに長居するわけにもいかない。流石にそのような体力も時間もない。

 まだ学生の身である。暇にはさせないとばかりに、各教科から出された課題が山のようにあった。計画的に始末しなければ、後で痛い目を見るのは自分だ。伊織のことばかり考えていたら、何も手につかなくなってしまう。

 長期間、伊織の行方が不明になるのは落ち着かなかった。SNSに投稿するストックも大量にあるわけではない。大体いつも枯渇している。すぐにネタが尽きるのは目に見えている。せめて伊織の家を知っていれば、と思案して、刹那、ハッと目の覚めるような気分を味わった。そうだ。家だ。家があるではないか。

 急激に鼓動が高鳴り、心拍数が急上昇した。これまで、伊織の後をつけるのは正門までにしていた。今日もそのつもりだった。しかし、自分に課したその取り決めをなしにしてしまえば、伊織の住まいが明らかになるのではないか。

 自宅の情報を手に入れられれば、休日でも伊織の動向を観察できる可能性がある。住所を知るだけで、ベールに包まれた伊織のプライベートに訪問できてしまえる。そこには垂涎の情報が。すぐに行動に移すべきだ。