嘘と欲求

 長い言い訳は怪しまれることを知った。ならば、短く済ませればいいのか。そんな単純な話なのか。今している長考すら、疑惑を確信に変えるものなのではないか。

 ダメだ。ダメだ。考えれば考えるほど、自分が不利になっていく。でも、考えなければ、余計な一言を漏らしてしまう可能性がある。

 翔真は確かに黒だが、自分から黒だと言いたくはない。白だという体で話して、伊織にも白にしてもらわなければならない。黒から白にするには、一体どれだけの白を加えなければならないのか。

 普段はほとんど使わない神経を酷使しているせいか、頭痛の症状が表れそうになった。良い案が何も浮かばないことに焦りばかりが募っていく。まともな答えが出てこない。こうなったらもう、苦肉の策である。

「……俺は、何もしてない。本当に。しょ、証拠だってないだろ? 間違いなく潔白なのに、疑われるのはきついって。あ、ほら、雨宮かっこいいから、女子とかがちょっと、気にしてるとか、そんな感じじゃない? そ、そうだ、不安だったら、俺も一緒に犯人探しするから。それで、どう?」

 白であることを主張しつつ、しっかり対策も講じる。下手くそながらも情に訴えかける作戦だ。何がどうなのか自分でも分からないが、とにかくこの場を切り抜けられるのなら何でもいい。伊織の注意を逸らし自分への警戒を解かなければ、今後の情報収集と写真撮影に支障が出る。

 額にも背中にも大粒の汗が伝いそうなほどに追い込まれている翔真は、伊織が素直に引いてくれるのを願った。なかなか口を開かない伊織は、翔真の言葉を咀嚼して嘘か真か慎重に判断しているかのようで。感情の読み取れない表情で翔真を見つめている。口が渇いた。唾を飲んでも、ほとんど意味はなかった。

 居心地の悪い沈黙が落ちる中、視界の端で生徒が階段を上がってくるのが見えた。踊り場で向かい合い、お世辞にも仲が良いとは言えない異様な雰囲気を放っている男二人に気づいたが、すぐに見てはいけないものを見てしまったかのように顔を背ける。心なしか足早に過ぎ去っていく。生徒の姿が見えなくなった。計ったように伊織の唇が動いた。