嘘と欲求

 俯く翔真は震える息を吐く。勘違いかもしれないと言ってはいるが、つけ回されているような気がするという違和感を伊織が覚えているのは確かだ。

 情報を得るためにつけ回しているのは間違いのない事実である。だとしても、ここで認めるわけにはいかない。上手い言い訳は思いつかなくとも、だからといって認めるのだけは違うと、翔真は咄嗟に悪知恵を働かせた。

「し、してない、そんなこと、全然。雨宮の勘違いだろ」

「じゃあ、なんで、そんな見て分かるほど動揺してるのか教えて」

「そ、それは、その、あ、あれだよ、あれ。まさか、雨宮から声をかけられるとは思ってなくて、だから、驚いたっていうか。ああ、ほら、接点ない人にいきなり、聞きたいことがある、とか、冗談抜きの真剣な声と顔で呼び出されたら、雨宮だって落ち着かなくなるだろ? それだから、これは。どこの誰が雨宮をつけ回してるのか知らないけど、少なくとも俺じゃないし、仮にもし、俺が雨宮をつけ回してたとしたら、そうかと聞かれて、はいそうです、なんて言うわけないし、まずその存在自体、雨宮の気のせいかもしれないし、だから、俺を疑うのは筋違いっていうか、雨宮の自意識過剰っていうか、まあ、そういうことだから」

「よく喋るね。後ろめたさがある人ほど、言い訳が長いらしいよ」

 間を置かずにズバッと速攻でぶった斬られ、伊織を非難してまで必死に誤魔化していた翔真は喉を詰まらせた。ここで止まるのは罪を認めるようなものだと気づいたが、続く言葉を引っ張り出せないせいで撃沈してしまう。

 否定するための言動が、全て裏目に出てしまっている。よく考えて発言をしなければ墓穴を掘る結果となる。読書家の伊織は口撃が強そうだ。対して翔真は話すのが下手な根暗である。長期戦は避けなければならない。あまり会話を続けると、ボロばかり出そうだった。

 翔真はどうにかこの場を打開する策を捻出しようとした。違和感を覚えている伊織に気のせいだったと思わせ、自分に降りかかった疑惑を解くにはどうすれば。